第28話 常ニ諸子ノ先頭ニ在リ
「ヒヅル・オオミカ着艦。ブリッジに向かいます。」
ヒヅルは、アマテラスを降りる。
「おいヒヅル!よォ~~くやったぜ!
カンナギの上から見てたが、お前スゲェじゃあねェか!!」
真っ先にウォルノが、近づいてはヒヅルに肩を組み賛辞を送る。
それを皮切りに、皆が群がり歓声が飛び交う。
フィリスがおもむろに近づく。
「ヒヅル……くん。さっきはありがとう。
助けられたわ」
「こちらこそ。僕も必死だったから。
上手く助けになれたかは分からないけど、無事で良かった」
そう謝辞を返すヒヅルの胸には、いつもの円筒がキラリと光った。
「……!!そのネックレス!」
フィリスは覚えていた。
交戦した敵パイロットの胸から下がる、全く同じ円筒のついたネックレスを。
「これ?これはね、亡くなった妹とお揃いの……大事なお揃いのものなんだ。
中に家族の写真を入れてお守りにしてるんだ、ホラ」
中に入った家族写真。
それをヒヅル君が広げ、皆が覗き込む。
(……!!!!!)
フィリスは心の臓に冷や水を食らったような衝撃を受けた。
そこに映っていた"妹"。
さっき交戦した女性パイロット。
髪型は違えど、非常によく似ている。
フィリスは言葉に言い淀んだ。
「とても仲良さそうね。
亡くされて……辛かったわよね」
ヒヅルは、悲しげな笑顔を浮かべる。
その笑顔の前にフィリスは居ても立っても居られなくなる。
「じゃあ、私は救護ルームによってブリッジに行くわ。
それじゃあまた後でね」
フィリスは足早に立ち去る。
(そんな……。あのパイロットが。
ヒヅル君の妹だなんて……)
彼女の脳裏には、金色に輝く円筒が焼き付けられて、離れることはなかったのであった。
ブリッジ、カンナギクルー。
「伊忌島視認。着艦体勢ヨシ」
「管制塔、通信可能ネ!緊急着艦のエマージェンシー送信済みヨ!」
メインエンジンを被弾したカンナギが煙をあげ、大洋上の孤島に近づいてゆく。
伊忌島。
この島は九重共和国、日の本地区と大陸部の中間に存在する孤島である。
この静海に浮かぶ小島は、元々ヘブンズギフトが大量出土した遺跡が存在した島であった。
だが、ブラダガム帝国のロシア・ソビエト地区から艦艇が高頻度で襲い来る位置でもある。
そのため南の山を中心に軍拡・遺跡と地下通路を利用した要塞化がされている。
この島が落とされることは、首都たる日の本陥落に王手がかかってしまう。
軍備も拡充され、滑走路も確保されたこの島は、避難に最適だったと言えよう。
「着艦許可が出次第、エンジン修理!
追手がくるのも時間の問題。
犠牲の上に成り立った以上……私たちは生きて、そして任務を全うするのよ」
ミランダが、遠い目線のまま着々と指示を出す。
友軍の身を挺した覚悟に、彼女は未だ心を引きずられている様子だ。
カンナギは、精一杯の軟着陸を試み、滑走路に横たわっていく。
朝ぼやけの中、カンナギクルー一同は艦を降りる。
「カンナギ隊、艦長のミランダ・クックです。
此度の事態の中、受け入れの程誠にありがとうございます」
「我ら伊忌島防衛部隊、人呼んでイチマルキュウ師団は歓迎します。
とは言え、ここも激戦地。
重要拠点かつ敵の最も欲しい大将首・カンナギ隊があると分かれば、すぐにここも激しい戦火となるでしょう」
イチマルキュウ師団長は、緊迫した目つきで冷静に語る。
「ですがご安心ください。
『我ら、常に諸子の先頭に在り』
命を賭して、この国もあなた方もお守りいたします」
力強い言葉と、爽やかな笑顔で彼は語った。
「ありがとうございます。
勿論、敵が来たら俺たちも最善を尽くすつもりぜェ。
しっかし、敵の情報はどれだけ把握できてんだ?」
ウォルノが尋ねる。
師団長は思案しながら答える。
「我が情報部は、敵の襲撃により情報の収集が難航しています。
確認できる範囲では……あのヴラドミール・ラインハルトが指揮する三〜四個師団の規模です」
ジェイが顔を顰める。
「ヴラドミール…サハリン解放戦線で共和国に壊滅的打撃を与えて『極北の狼』と恐れられた男が相手…か。
一筋縄ではいかなさそうだな」
「しかも更に悪いことに新たに、上位ランクのパイロットも多数、含まれている模様です。
何が何でも、この島を死守せねばいけません」
一同の顔が引き締まる。
(きっと、エムルとあの蛇腹剣のFSもいるに違いない)
ヒヅルは一度退けたライバルの存在を確信していた。
「一度カンナギと各機体の修理・アップデートが必要ね。
カンナギ隊は全面改修が終わるまでの間、この島の防衛戦に加わることとします。
敵の上陸と対人戦になった時のため、作戦立案と訓練もイチマルキュウ師団と行います」
ウォルノはうなずく。
「あいよォ、艦長。
任せな、特殊任務のため、俺たちカンナギ隊があんだからよ〜ォ」
この島を守ること。
それがこの国の小さな希望の灯火になる。
僕は、正義のためにヴラドミールを討って『希望』となるんだ。
目に新たな決意の目をたたえ、ヒヅルは夜空にそびえ立つ伊忌島の山を見上げるのだった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:第二次世界大戦末期の硫黄島の戦い、陸軍中將栗林忠道の言葉より。




