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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 前編
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第28話 常ニ諸子ノ先頭ニ在リ

 「ヒヅル・オオミカ着艦。ブリッジに向かいます。」

ヒヅルは、アマテラスを降りる。


「おいヒヅル!よォ~~くやったぜ!

カンナギの上から見てたが、お前スゲェじゃあねェか!!」

真っ先にウォルノが、近づいてはヒヅルに肩を組み賛辞を送る。

それを皮切りに、皆が群がり歓声が飛び交う。


フィリスがおもむろに近づく。

「ヒヅル……くん。さっきはありがとう。

助けられたわ」

「こちらこそ。僕も必死だったから。

上手く助けになれたかは分からないけど、無事で良かった」



そう謝辞を返すヒヅルの胸には、いつもの円筒がキラリと光った。

「……!!そのネックレス!」

フィリスは覚えていた。

交戦した敵パイロットの胸から下がる、全く同じ円筒のついたネックレスを。


「これ?これはね、亡くなった妹とお揃いの……大事なお揃いのものなんだ。

中に家族の写真を入れてお守りにしてるんだ、ホラ」

中に入った家族写真。

それをヒヅル君が広げ、皆が覗き込む。




(……!!!!!)

フィリスは心の臓に冷や水を食らったような衝撃を受けた。


そこに映っていた"妹"。

さっき交戦した女性パイロット。

髪型は違えど、非常によく似ている。


フィリスは言葉に言い淀んだ。

「とても仲良さそうね。

亡くされて……辛かったわよね」


ヒヅルは、悲しげな笑顔を浮かべる。

その笑顔の前にフィリスは居ても立っても居られなくなる。


「じゃあ、私は救護ルームによってブリッジに行くわ。

それじゃあまた後でね」



フィリスは足早に立ち去る。

(そんな……。あのパイロットが。

ヒヅル君の妹だなんて……)


彼女の脳裏には、金色に輝く円筒が焼き付けられて、離れることはなかったのであった。




ブリッジ、カンナギクルー。

「伊忌島視認。着艦体勢ヨシ」

「管制塔、通信可能ネ!緊急着艦のエマージェンシー送信済みヨ!」


メインエンジンを被弾したカンナギが煙をあげ、大洋上の孤島に近づいてゆく。


伊忌島。

この島は九重共和国、日の本地区と大陸部の中間に存在する孤島である。


この静海に浮かぶ小島は、元々ヘブンズギフトが大量出土した遺跡が存在した島であった。

だが、ブラダガム帝国のロシア・ソビエト地区から艦艇が高頻度で襲い来る位置でもある。


そのため南の山を中心に軍拡・遺跡と地下通路を利用した要塞化がされている。

この島が落とされることは、首都たる日の本陥落に王手がかかってしまう。

軍備も拡充され、滑走路も確保されたこの島は、避難に最適だったと言えよう。



「着艦許可が出次第、エンジン修理!

追手がくるのも時間の問題。

犠牲の上に成り立った以上……私たちは生きて、そして任務を全うするのよ」


ミランダが、遠い目線のまま着々と指示を出す。

友軍の身を挺した覚悟に、彼女は未だ心を引きずられている様子だ。


カンナギは、精一杯の軟着陸を試み、滑走路に横たわっていく。

朝ぼやけの中、カンナギクルー一同は艦を降りる。

「カンナギ隊、艦長のミランダ・クックです。

此度の事態の中、受け入れの程誠にありがとうございます」



「我ら伊忌島防衛部隊、人呼んでイチマルキュウ師団は歓迎します。

とは言え、ここも激戦地。

重要拠点かつ敵の最も欲しい大将首・カンナギ隊があると分かれば、すぐにここも激しい戦火となるでしょう」


イチマルキュウ師団長は、緊迫した目つきで冷静に語る。


「ですがご安心ください。

『我ら、常に諸子の先頭に在り』

命を賭して、この国もあなた方もお守りいたします」

力強い言葉と、爽やかな笑顔で彼は語った。



「ありがとうございます。

勿論、敵が来たら俺たちも最善を尽くすつもりぜェ。

しっかし、敵の情報はどれだけ把握できてんだ?」

ウォルノが尋ねる。


師団長は思案しながら答える。

「我が情報部は、敵の襲撃により情報の収集が難航しています。

確認できる範囲では……あのヴラドミール・ラインハルトが指揮する三〜四個師団の規模です」


ジェイが顔を顰める。

「ヴラドミール…サハリン解放戦線で共和国に壊滅的打撃を与えて『極北の狼』と恐れられた男が相手…か。

一筋縄ではいかなさそうだな」


「しかも更に悪いことに新たに、上位ランクのパイロットも多数、含まれている模様です。

何が何でも、この島を死守せねばいけません」

一同の顔が引き締まる。



(きっと、エムルとあの蛇腹剣のFSもいるに違いない)

ヒヅルは一度退けたライバルの存在を確信していた。


「一度カンナギと各機体の修理・アップデートが必要ね。

カンナギ隊は全面改修が終わるまでの間、この島の防衛戦に加わることとします。

敵の上陸と対人戦になった時のため、作戦立案と訓練もイチマルキュウ師団と行います」


ウォルノはうなずく。

「あいよォ、艦長。

任せな、特殊任務のため、俺たちカンナギ隊があんだからよ〜ォ」



この島を守ること。

それがこの国の小さな希望の灯火になる。

僕は、正義のためにヴラドミールを討って『希望』となるんだ。


目に新たな決意の目をたたえ、ヒヅルは夜空にそびえ立つ伊忌島の山を見上げるのだった。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:第二次世界大戦末期の硫黄島の戦い、陸軍中將栗林忠道の言葉より。

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