第27話 氷の微笑
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某所 九重評議会
「失礼します。ただいま報告があがりました。
1つはカンナギは敵の急襲を受け、不時着。
モンゴル地区へ向かうことかなわず、とのことです」
秘書が円卓に座る9人の大人達に報告をする。
「つまり出だしから失敗、ということか」
「敵に情報が漏れているとしか考えられん」
「まぁ落ち着いて。2つめの報告を聞きましょう」
ざわめく会議室を1人の男が制した。
「2つ目は……信じられないことですが。
早くもヒヅル・オオミカが『ランクⅡ』を開花したとのことです」
さっき以上のどよめきと歓喜の声が室内に響き渡る。
「なんと…もう世界に変革をもたらしたというのか!」
「仮説が実証された、と言えるでしょう」
「これでブラダガムを、いや世界を制することができる!」
興奮して立ち上がるものや、冷静に分析を行うものがまちまちだ。
「彼が"女神の欠片"か……しかし、引き出すためのシステムが必要だったとは」
「既にその関係者も、ここに呼んでおります。
入れ!」
秘書が男に命令をする。
「失礼します。
突然呼び出された時、また下らない実験をさせられるかと思いましたよ」
そこにあった姿は
「九重共和国 特別技術研究員 シキ・ヤサカです」
他でもない、シキだった。
「さて、彼とそのシステムの関係を話してもらおうか。
その『太極図システム』とやらの」
「それは難しいですねえ……。なぜなら、あのシステムは遺跡から出たヘブンズ・ギフトの1つ。
それを一部解明できぬまま積んだに過ぎません」
その言葉を聞き、議員の何人かが立ち上がる。
「そ、そんな何とも分からぬものを君は大事な最新機体に積んだのかね!?」
彼らの疑問も確かだ。
だが、シキは涼しい顔で答える。
「ご安心ください。
あのシステムは、おそらく我々の前の文明……さしずめ『ロスト・プライム』とでも名付けましょうか。
その末期に機械操縦の他、ランクⅡのような能力強化に利用されていたことは事実です。
“何か”をキーにして、ね」
「その”何か”とは一体何だね?」
「その”何か”とは……」
ここでシキが言葉を止める。
部屋中に緊張が走る。
「私も随時研究中です、あっははは……」
「はぁ。では早くそれを突き止めたまえ!」
肩透かしの答えに、一同は少々呆れた。
「もしかしたら、ヒヅルの『生きたい』という基本的な本能が反応した可能性はあります。
まぁどの道現状では、未解明の部分を除外した上で、簡易化したことで量産もできましたことですし。
当面困ることはないでしょう。
勿論、ランクⅡ以降を他の兵士も引き出せるよう、私も今後も全力を尽くします」
「わかった、もういい。下がりたまえ」
失礼します、と一言告げてシキは部屋を出た。
扉が閉まると同時に、シキの笑顔は消えた。
「情報が漏れるかもしれませんからねえ。
太極図システムのキーポイントは我が胸にだけ、今は閉まっておくこととしましょう」
シキはその含みある氷のように冷たい微笑を浮かべ、闇に溶けていくのであった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:洋画「氷の微笑」原題は「Basic Instinct(基礎的本能)」です。
駆け引きが主軸の映画のため、採用。




