表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter3.5 合成のクラスメイト
40/120

第26.9話 幼き日の終わりはそこに

 放課後、夕暮れ日も傾き始めた頃。

いつもの桜の木の上で、ウォルノはやきもきとしていた。


「くそ、何でこんなことに……。あいつに恋なんて、まさか……。

可愛いもんな仕方ねェか?

なんだよ、何なんだよもうよォ~~~ッこの気持ちは!」


いや落ち着け、と自分に言い聞かす。

心のどこかで自分の感情を受け入れようとする。

プルメリアとの関わりは、予想だにしない方向に進んでいた自分に驚く。


「手早く済ますってきっと断るつもりか。

でもなァ~~~、温かな柔肌で人の心もあって……恋愛もその先もできる女だ。

案外抱かれてコロッとなんてコトも……痛ッ!」


 もにょる思考を、突然の痛みに中断される。

石を突然ぶつけられたらしい。

「なにすんだコラァ!」

「よぉ、ワンちゃん。遊ぼうぜ」

声のする方に目を遣ると、ガラの悪そうな男たちが10~20人ほどいるではないか。

中には中々物騒なものを、持っている者おり物々しい。


成井が第一声をあげる。

「この学校に躾のなってない駄犬がいると聞いてなあ?

みんなで遊んで、しっかり躾けてやるよ」

ハァン、喧嘩ってことか。

中には過去に俺にコテンパンにされたやつもいるかもしんねェな。


「ハァ~めんどくせ。

チンピラごっこは他所でやりな。俺は人を待ってるんだ。

じゃあな」

「お前が待ってんのは機械、だろ?」

!!!!!コイツ……プルメリアのことを知ってやがる!

まさかッッ!!

ウォルノが屋上を振り返る。


「テメーら……腐り切ってやがるぜ」

木から飛び降りて成井達に近づく。


「やる気になったか……ぐあっ!!」

一瞬で成井はウォルノのノーモーションタックルで吹き飛んだ。

「テメェらは黒だ。

便所のクソムシにも劣る、汚ぇゲスヤローがよォォーーーーッ!!」



 プルメリアは屋上に続く、重い重い扉の前にいた。

そこには赤文字で『鉄柵補修中!立ち入り禁止』と書かれた札がぽつんとかかっている。

怖い、辛い、苦しい。

この扉の奥に何が待っているのか。

逃げ出したい、でも逃げたらウォルノさんがどうなるのか分からない。


私が私であること。

私がしたいことは、大事な人を守ること。

勇気を出して踏み出さないと。


夕暮れ照り返す屋上。

自分たちこそ世界の中心と思っていそうな女の影が3個見える。


「あなた、人間を理解しにこの学校に来たのよね?」

リエが人差し指でプルメリアの顎をしたから押し上げる。

ドス黒い瞳に金色の瞳が映り込む。

本物の瞳はさあ、どちらだろう。


「ならさ、あの犬といるのおかしいと思わなくて?

アレは人間じゃないのよ?」

「人間です、彼は。

誰よりも純粋で、強がってるけど傷つきやすい優しさを持った、1人の人間です」

「理解した気で!冷たい機械が!」

大事な人を侮蔑されたことに、プルメリアは怒りの感情を覚える。


「獣と人との区別もつかないで、何が機械よ。

再学習が必要ね、あなたには」

パァン、という乾いた音が空に響く。

と同時にプルメリアが床に伏す。


「やっと表情変えたじゃない、進歩よぉ?

教えてあげる。

暴力、イジメ、恥辱、痛み、恐怖。

人間ってね、爪弾きものにはどんな嫌がらせをしてもいい生き物なの」

リエが指パッチンをする。

箱崎がバケツでプルメリアに水をぶっかける。


「あらぁ、服が濡れちゃったわね。

機械なんだから水に弱いんじゃない?

服、脱がせてあげる」

藤田がハサミで歪に服を切り裂く。


プルメリアはか細く、震える声を出す。

「やめて……ください。

私はあなた達の不利益になることをしましたでしょうか?」


キッとリエの表情が歪む。

「あなたがいること自体が不利益なのよ!

機械のくせに、気持ち悪い!

表情も感情もロクにない合成品(つくりもの)の分際!

私達は誰より可愛くて、顔も成績も学年トップなの。

それがなに!?」


堰を切ったようにリエが言葉とともに、平手打ちを何度も何度もぶつける。


「化け物と恋人ごっこまではじめて、気持ち悪い!

人間ですら無い!アンタに!!

全部踏みにじられて!!

アンタがいけないの!!アンタって存在が!!!」


(……!”恋人”)

そう思うのも束の間。

プルメリアの胸ぐらをつかみ、金網に思い切り突き飛ばす。

その瞬間、プルメリアは理解した。


「そう……ですか。私は理解しました。

嫉妬、という感情とその現れ方を。

でも、それを誰にも言うことができなくて、苦しんでいたんですね。

辛かった、ですよね」


プルメリアは微笑む。

ここまでされて尚、手を差し伸べてリエを救おうとしている。


 その時、リエの中で何かが崩れた。

それは理性か、尊厳か。

叫び声を上げて、差し伸べたプルメリアの手を払い掴みかかった。


そこからはスローモーションのようだった。

補修中の鉄柵が、2人分の人の重さで外れた。

プルメリアが、リエが、空に消えて落ちていく。

藤田も、箱崎も一瞬何が起きたのか全く分からなかった。



 ガシャン、パァン!

何か大きなものが落ちた音が、辺りに大きく響いた。

「なんだァ……!!もしかして!

お前らどけ!!」

ウォルノはしぶとい2,3人の顔面をぶん殴り、音のした方に向かう。


そこには。

変な方向に手足が曲がったリエ。

そして、足が欠損してあちこちからチューブや機器類が出ているプルメリアがいた。


ウォルノが彼女を抱き上げる。

「おい、プルメリア!」

「ウォルノさん……来てくれたんですね」

「喋るな、早く治してもらわねェと!」

ウォルノはもう、どこかで分かっていた。


「私、もう一つ分かっていたことがあります」

「私は貴方が大好きです。これが”恋”なのですね」

「あぁ……俺も大好きだ」

それを伝えるには、遅すぎた。


「やっと言えた。やっと、聞けた……ありがとう」

もう、どこも見つめずに笑うキミ。

夕暮れはもう、既に山の端に落ちていた。



 事態の収束は1か月の月日を要した。

プルメリアは研究所へ回収となり、プロジェクトは一時中止となった。

リエは退学と下半身不随から精神が壊れたのか、自殺したとのことだった。

藤田と箱崎も当然退学。泥を塗られた親と喧嘩になり、家出したきり行方知れずとのことだ。


一方ウォルノはいつもの桜の木の上だった。

「なぁ、プルメリア。

俺達の”人”としての生が始まったのはこっからだったよな」

空を見上げ呟く。


「不思議なモンだよ。いつの間にか、お前から人間を教わってただからな」

「俺はお前を守れなかった。

大切なものも、頭と力がないとなぁんもできねェもんだな」


桜の木から降りて彼は歩き出した。

「次は『守りたい』って気持ちを実行できるようにするぜ」


桜の下で笑うプルメリアが、ウォルノの背を見つめているような気がした。

彼が従軍する数年前の話である。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:シン・汎用合成クラスメイト:宇佐見227号

歌詞の「天然にさよならを 幼き日の終わりはそこに」

から拝借。


【後日談】

後日談というほどではないですが、一応設定だけ。

藤田と箱崎はこの後誰とも分からん男の子供を孕みます。

その子供は生後すぐ反社に売られ、新型クローン実験の礎になります。


己が身も、秘密裏に帝国へ売られて、北の大地で奴隷と人体実験の果てに精神も壊れる末路となります。

人類の科学発展ともに、研究成果がメアリーの強化に繋がると思うと微笑ましいですね。

いのちの再利用って大事。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ