第26.5話 その笑顔を見るとき
気がつくとウォルノは前よりも授業に出るようになっていた。
なんでもないような日常が、彼女によって少しづつ変わり始めている。
いつから彼自身そうだったか分からぬ。
亜人で不良と後ろ指をさされ、それを本人も隠そうともしない。
それでも、キチンと教室にいるのは何故だろう。
(とても人間らしいのですね)
プルメリアのその一言は、確実にウォルノの何かを変えたのだろう。
あの日から彼はプルメリアと会話をすることが増えた。
ウォルノが木の上で教科書を読んでいる時は、彼女が話しかけに来た。
プルメリアがポツンと教室にいる時は、ウォルノが茶化すこともあった。
あの日から……、見るもの全てが変わっちまった。
今まではプルメリアが機械で他の奴らがヒトに見えてた。
でも今の俺には、プルメリアの方が人らしく見えて、他の奴らが合成品に見えちまう。
もっと言えば…先生に従順なヤツは尚更だ。
余計に社会に対して都合よく生産された作りモンそのものだ。
それほどまでに無機質な普通の奴らより、プルメリアの方が自分らしく"生きている"じゃねェか。
そんなことを考えつつ、教室に戻ってきた時のことだ。
プルメリアが女子生徒のグループに話しかけられている。
女子達は偽物の笑顔を浮かべ、淡々と質問をしている。
「プルちゃん。
あなた人間を知るため、に私達と一緒にいるんでしょ。
どうしてあの気味の悪い狼と一緒にいるの?
あれは亜人であって、ヒトじゃないのよ」
「……?あなた方の発言内容が、私には理解不能です。
亜人は法的に人に含まれ、同じ人権を有します。
それに、彼は人より優れた頭脳と、不器用ながら優しい性格をされた人です」
オイオイオイ……それじゃあ煽りじゃねェか……。
隠れて聞くウォルノはプルメリアの受け答えに肝を冷やす。
「でもね、あいつ私達と見た目違うし、力もすごく強いんだよ?
昔喧嘩で相手を半殺しにしたって、ユカちゃんから聞いたし……。
ね、だから一緒に関わるのやめよ?
プルちゃんのためを思ってるのよ」
なんだァ、この気持ちは。
あのバカ女どもに対する怒りや、自分がコケにされてることに対する悲しみではない感情が湧き起こる。
それを強いて言うなら『守りたい』。
ウォルノはプルメリアを守りたいという気持ちと、彼女が孤立させられそうになることへの怒りが入り混じった複雑な感情に揺れ動いていた。
同時に自分の中の今までなかった気持ちへの動揺もしている。
彼は隠れているが、プルメリアと女子生徒の会話に耳を傾ける。
「私のためを思ってくださる、その気持ちには感謝します。
でもあの人は悪い人では無いことも事実です」
プルメリアは女子生徒たちに対して、冷静かつ優しく返答している。
それは確かにその内心で深く傷ついているのが伝わってくる。
しかし、彼女は自分自身を守るために微笑みを失わず、その場に立ち向かっていた。
「ご心配いただきありがとうございますが、ウォルノさんは私を傷つけることはありません。
彼は過去の出来事を乗り越えようとして、成長することをやめない人間です。
私と一緒にいることで、彼も変わり始めているのを感じます」
プルメリアの言葉に、女子生徒たちは驚きと疑問の表情を浮かべる。ウォルノは自分が彼女を守ることで、自らも変わり始めていることに気づく。
「ヘッ……言うじゃあねェか……」
プルメリアをまた『人として』理解した。
そんな気がした。
だからこそ、やるべきはひとつだ。
「てめぇら、その辺にしとけよ。
“1人”に寄ってたかって、俺よりよっぽど動物みてェだ」
ウォルノは自らが出ていく。
それは大事な人を守るため、そのためにできることを考え行動した結果だ。
「な、なによアンタ……アンタがプルちゃんを騙そうとしてるからじゃない!
私達が悪いっていうの」
ギョッとしながらしどろもどろに、女子生徒たちは発言する。
「ハン、やめとけよ。この女は人間を理解するためにココに来たんだろ。
お前らのせいでコイツが”イジメ”を理解しちまうじゃあねェか」
「は?キモ!箱崎、藤田。行こ!」
「うん、リエちゃん」
女子生徒たちは尻尾を巻いて逃げた。
「お前、大丈夫かよ」
「えぇ、私は大丈夫です。ウォルノさんを守れたのですから」
先程と違う心からの笑顔が眩しい。
「俺のことじゃあねェ。お前が大丈夫かって話」
「えっ、あ、ありがとうございます」
ちょっと驚いた顔に変わる。その表情のころころ変わること、本当に人間になってきてるんだな。
「なんかな……お前は生身の人間より他人本意だぜ?
お前がお前らしくあることが、最も人間らしくあること、だぜ」
「私が私らしくあること。
ふふっ、今度は私が貴方から一つ、学びを得ましたね。
ありがとうございます」
その笑顔は、教室に差し込む夕日よりとてもとても眩しいものだった。
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:汎用合成クラスメイト:宇佐見05号
歌詞の「――桜の下で笑う君。その笑顔を見るとき、僕は――。」
から拝借。




