表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜
25/120

第16話 新天地へ



 ヒヅルが外を眺めると、既に夕方に差し掛かかりかけていた。

目的地へはあと1時間といったところか。


『別に命拾いしたやつのことをわざわざ殺す必要もまた無い』

『お前の行動理念は八つ当たりでしかねえぜ』

ヒヅルの胸中には、ウォルノの言葉がずしりとのしかかり続けていた。


僕の家族やアキヒロを殺した帝国兵士は、もしかしたら捕虜として安穏としているのかもしれない。

ウォルノは『僕に大事なものを奪った奴が生きることを許容しろ』と言うのだろうか。

今の僕には、到底不可能だ。


逆にもし、その帝国兵士が既に亡くなっていたら?

直接の仇は既にこの世にいない。

けれど、その命令を下した上官・ひいては皇帝は生きている。

彼らを討てば……討てばどうなる?

確かに僕の復讐の旅は終わる。

その先に何があるだろうか。


世界はひとつになる?

戦争のない世が来るのか?

誰も傷つかない?


世界も政治も簡単ではない。

そんなことはガキの僕にも分かる。

そして敵の兵士を殺すということは、僕も誰かの大切な人を奪うことに他ならない。


ウォルノにさっき説かれるまで、帝国軍を犬畜生の様にしか思っていなかった僕には『敵も一人ひとりが誰かにとって大切な人』であることがすっぽりと抜けていたように思える。

いや、気付かないふりをしていたのかもしれない。


復讐のために、闇雲に人を殺すことは……果たして正しいのだろうか?

それに気づいた今、僕に人にその銃口をむけられるのだろうか?


僕には……何も分からない。

なんのために……。



 「おい、起きろ。コノヤロウ」

ウォルノの声が不意にヒヅルの意識を揺り動かした。

どうやらいつの間にかまどろんでしまっていたらしい。

既に輸送機はキュウシュウ地区某所の基地に着陸している。


「お二人共、トラブルはあったものの長旅お疲れ様でした!」

オダさんは満面の笑みで、出入り口の扉を開ける。


そうだ、なんのために戦うのかも、銃を向けられるかも、すぐ答えは出てこない。

もしかしたらこの扉の先に、その答えが待っているのかもしれない。


ヒヅルはウォルノと共にドアの前に立ち、緊張と興奮が入り混じった表情を浮かべていた。

ウォルノをちらりと見上げる。どことなく余裕ある横顔だ。


 ドアの向こうには、遠くに青々とした草原が広がっているのが見えた。

さわやかな風が吹き、落ちかけた陽光が眩しく輝いている。

ヒヅルは一度深呼吸をした。

彼らは、新たな戦いの舞台への一歩を足を踏み出したのだ。



「お待ちしておりました。

特別任務執行部隊『カンナギ隊』ヒヅル・オオミカ曹長、並びにウォルノ・マイシー曹長。

キュウシュウ地区、司令官のムネトラ・タチバナです」

碧眼に茶交じりの髪、風が吹くような爽やかな30代の好青年、といった印象の男が部下とともに出迎えた。


「誠にありがとうございます、ウォルノ・マイシー曹長であります。

カンナギ隊着任のため参じました……ホラ」

肘でコツコツと小突かれ、ヒヅルも敬礼をする。


「カンナギ隊に抜擢された60名のうち、まだ計5名しか到着していません。

一度お二人を仮の宿舎にご案内します。

ギン、お二人の荷物を」

気の強そうな女性が、無表情のまま二人のキャリーケースを手に取った。



 仮宿舎に案内されるまま入る。

簡素ながらベッドや机が整然と配置された、清潔な部屋だ。

壁には地図やメモが掲示されており、直近まで使っていた様子がうかがえる。


 「都合、2人で一室ですが。

主要施設は秘書のギンが案内してくれます。私は業務もあるのでこれで」

ウォルノは立ち去るタチバナに敬礼した。

そのまま窓の近くに立ち、少々警戒している。

彼の鋭い瞳は何を見ているのだろうか。


「なあギン女史。タチバナ司令官っていくつなんだ?

とても司令官って年齢に見えない若さだが」

「齢46になります。あの方は亜人のクォーターですので少々若く見えるだけです」

2人は声も出せないまま、目を丸くした。



 ヒヅルは疲れた身体をベッドに沈め、一息ついた。

しかし、ウォルノは休む素振りもない。

「なァ、何故俺たち途中で襲撃にあったよな」

寝転ぶヒヅルのベッドのへりに座り、静かにウォルノが語りかける。


「共和国中のエリート、ここに集めてるんだろ?

ってこたァ、帝国が不意を突いたら一網打尽じゃあねェか。

その上俺たちの移動はバレてた……それってよォ……マズイいんじゃあねえの?」


心配そうな横顔がちらりと目に入る。

「ありがとう、みんなを案じてくれてるんだ」

「ヘッ、それだけじゃねェよ。相棒が死んだら困らァ」

ベッドに仰向けになるヒヅルの頭を、ウォルノの太い腕がわしゃわしゃと撫でた。


ヒヅルはウォルノの姿を見つめながら、感謝の気持ちを仄かに抱いた。

心強い味方であり、なんとなく兄のように感じた。


 30分後、ギン女史に会議室棟へと案内された。

「艦長、並びに副艦長。先にお二人をお連れしました」

「失礼します。ヒヅル・オオミカ曹長です」

「同じくウォルノ・マイシー曹長です」


「来た、か」

最奥の椅子がくるりとこちらを向く。そこには……

【ライナーノーツ】

1.キャラクターについて

・ムネトラ・タチバナ&ギン→立花宗茂と立花誾千代。共和国司令官、関ケ原西軍多すぎ説。

描写はないけど、ムネトラはエルフ系の亜人クォーターイメージしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ