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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter1 日出る国の少年
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第7話 若き2人の邂逅

 「奴らはたったひとつの火種をこじつけて、宣戦布告を行ってきたのだ。

つまり東欧の春のように、紛争のひとつなどではない。

これは……百年戦争に続く、実に大きな戦争の始まりを意味しているのだ。


その証拠に、攻撃を喰らったのはこの基地だけではない。

九重各地の兵士育成拠点や農地など……継戦能力を確実に断つための場所の多くが、同時攻撃されている」



「なるほど……。

ひとつは、帝国が有利になる目的として『共和国の弱体化』、政治的な攻撃理由は『報復』ということですね。


たった1ヶ月前の事件に対して、即座に準備→攻撃を遂行……元々の事件も仕組まれていた可能性も大アリでしょう」


画面を真っ直ぐに見つめたまま、納得をその口元に浮かべたあと、鋭い目のままヒヅルはぽつりとつぶやいた。

「これは……本当に好都合な理由ですね」



「だろう、本当に奴ら好都合な理由を」

「いや、違いますよ」


話し出すオガワの言葉を遮り、ヒヅルは立ち上がる。

「僕がブラダガムをぶっ潰す。

その、好都合な理由ができたということですよ。

奴らが草原の騎兵なら、いつか僕は空から草原ごと奴らを焼き尽くすだけです」


強力な意思のこもったその眼を見たオガワは、ヒヅルのその後ろ姿に声をかける。

「ま、待ちたまえ。どこへ行くつもりだ。

基地の多くが壊滅したとは言え、最低限は機能している。

勝手な行動は慎め。


まずは自室か地下別館で待機しろ。

私は、ここの責任者だ。

今から全体への指示と指揮を取りに行く」


オガワはそう言うと、即座に割れたコンクリートに躓きながら、せかせかと硝子の割れた基地中枢へと走り去っていった。


周囲はまだ慌ただしい。

昨日まで一緒に訓練をしていた同期が、瓦礫の片付けをしていたり、担架にシートを掛けられ物言わぬ状態で運ばれたりしている。


ヒヅルは言われるがまま、今日限りで引き払うはずだった自室に戻ってみることにした。

ヒビや一部壁の崩れはあれども、全く過ごせない環境ではなかった。


隣のベッドに、目を遣る。

シキと笑い合っていた日々を、ぼんやりと思い出す。


どんな難問のクイズを出してもさらりと答え、複雑な数学でさえもすらすらと解いていた。

僕が怪我をしたら、血の滲んだ包帯を取り替えてくれたりもした。

その在りし日の姿が、空っぽの部屋に浮かぶばかりだ。


ヒヅルは思い至った。

早々に基地を立ち去ったシキは、果たして無事だったのだろうか。


そもそも、彼の配属は九重共和国でも日の本地区外、大陸は旧台湾連邦地区と聞いていた。

だからこそ、祝賀会に出席する暇もなくこの地を発ったらしい。


但し、それでも安泰無事とは思えない。

シキの身の安全が脳裏をよぎると、横になり無心になろうとも、只々不安が心に滲み侵食をしていく。



 30分も経った頃合いだろうか。

「ダメだ、ダメすぎる」

元々、一度嵌まり込むとネガティヴな思考が続きがちになる。


その傾向をヒヅルは、自分で重々理解していた。

そのために、気分を転換するスイッチを入れるしか無いな。


とは言え死屍累々の状況では、晴れ晴れとした気持ちにもなれない。

どうしたものか、無事を神でも祈ろうか。

「……神頼みか」


 ヒヅルは、川を市街地の反対まで上っていったところへ、愛宕神社という地があったことを思い出した。

そこは火の神様、カグツチが祀られているとのことで防火祈願で上官と行った覚えがある。


思えば大きな火災が起きなかったのも、その御利益だろうか。

などと余計なことを思考している間に、ヒヅルは既にバイクに乗って行動を起こしていた。



 白のシャツに黒のアウター、ブラウンのスキニーパンツという軽装に着替えた少年は、颯爽と街を駆ける。

街を過ぎると、どこにでもありそうな田舎風景でしかない。


ヒヅルの騎乗している鉄の馬は、颯爽と畑や草地を駆けていく。

風を感じながら、自分自身の行動力の高さを自覚するばかりであった。


神社前に着くなり、バイクを降りて長く続く石段の前に立つ。

深く一礼。


手水場で人を殺めたその手を丹念に清めて、境内に入る。

僅かばかりの小銭を投げ込み、二拝二拍一拝。

(どうか、シキが無事でありますように)

そう心のなかで願うばかりであった。


己は人を殺めたくせに、自分自身は友の命を心配する。

そんな身勝手な思いを、カグツチ様は笑っていらっしゃるのだろうか。


拝殿に背を向けないように、夕闇に包まれ始める境内をゆっくり見回すと、木が幾数本と厳かに立っている。



(ハルニレには遠く北の地で発火剤として使われ、古くはその炎が激しい火の神を生んだと言う。

草木も震える極寒地で、開墾する民達もその火にお世話になったんだろうね)


シキのことを考えていたからだろうか、過去に訪れた時の彼が語る雑学を、境内に植えられた春楡(ハルニレ)の木を眺めてつい思い出してしまう。



 「日の本地区では古くから、ヨウカイに出会う時間があるんだってね。

『オーマガトキ』、だったか?」

急に先程上がってきた石段の方から声がした。


青と紫を基調としたジャケットとパーカーの組み合わせ。

足の長さを強調する黒のスキニーズボン。

ウルフヘアの銀髪にアイスブルーの瞳。


左右対称の均整の取れた、怖いほどの美少年が真っ赤な鳥居脇、新録の草地に立っていた。


ヒヅルは拝殿に背を向けて、その銀髪の少年を見つめてしまうのだった。

【ライナーノーツ】

・タイトル元ネタ:ロシア軍歌「ポーリュシュカ・ポーレ」の日本語の歌詞

「若い2人の生命が 寄り添うように燃える」

より

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