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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter6 氷原のスター・フィールド
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第94話 月下一閃

「おっ、ヒヅルが苦戦してるねえ。まだ戦いの真髄には至ってないってとこかな?」


空を見上げると、アマテラスが敵の弾でその紅白の体躯から火花を散らして舞っている。

一方地上は南西から土煙を立てて不揃いな亡霊たちがマサヒコに押し寄せる。


「さて……。来たか」

「敵は一機かよ!」

「サムライみてえだな、俺は知ってるぜ!」


オーガルド・リペアに乗る囚人たちは血気盛んに攻め入る。

対するカゲキヨは動かず、乗っているマサヒコも目を閉じて微動だにしない。


「動かねえ!もらったぁ!」


前腕が丸々ビームセイバーになった一機が速度を上げ切り掛かる。

……が。


その場から動くことすらなく、腕は吹き飛び胴から真っ二つになった。



「遅いなあ。そして、弱いなあ」

「な、なんだ!?何が起きたのか、見えねえ……」

「おいおい、大切な教え子の戦いを観察してるんだ。のろまが邪魔しないでくれたまえ」


退屈そうにマサヒコが問いかける。

本人には挑発した意図はとんと無い。

ただ、彼の眼前に映った技量をそのまま投げかけただけなのだ。


「んだとぉ……!俺たちはな、そりゃあ帝国でも名を轟かせた犯罪者よ。

シャバで好きに戦争やって、自分の快楽を満たしていいって言われただけさ!」

「お、犯罪者ねえ。じゃあ刃物の扱いに覚えは?」

「ナイフならあるぜ、こうやってなあ!」


ゴブ・リペアが、急接近してくる。

不釣り合いにくっついた他機体の腕でナイフを振るう。

いや、振おうとした。

振るうよりも先に、大きく踏み込んだカゲキヨが既に右腕を切り飛ばしていた。


「なっ、いつの間に!?」

「確かにスキは無かった。が、殺気が分かりやすすぎる。

よくそれでスグに捕まらなかったもんだ!」



近距離は危険と判断したのか、追従していた残りの小隊が下がる。

その中で唯一、レイピアと盾を構えた騎士のような外見にチューンナップされた機体が前へ出る。

ビスクドールの発展期だろうか。


小隊長と思しき軍人が命令を出す。

彼の額にも冷や汗が浮かび、慄く様が垣間見える。


「ヤツはカタナしか無い!

距離をとってライフルなどで応戦せよ!」

「ハァ……やるしかない、か」


好々爺のようなマサヒコの眼が鋭く変わる。

左右に分かれてはカゲキヨを囲むように展開し、銃火器を各自構える。

しかし、構えた先にはもう1人の武士の姿はいなかった。


「!?ど、どこに消えた!!!私は確かに目を離さなか」


通信が途絶える。

とうに背後に回っていたカゲキヨの一太刀でコックピットを刺し貫かれていた。


「人間の目は上下運動に弱いんだって。

しかも闇夜でしょ?ほんなら尚更」

「チクショウ、化け物が!」


ライフルに対しても、まるで源義経の八双飛びのように、雪原を右に左にと不規則に飛び回る。

その動きに、彼に言わせれば"たかが殺人鬼程度"では対応することは不可能。


「はい、一本」


抜き胴で真っ二つのリペア機。

やったことは上から背後に跳躍、そのまま小隊長機を斬り伏せた後に弾を避けながら近づいて切り捨てただけだ。


だがその『だけ』がどれほどの超人技なのか。

既に他の襲撃者達には、十分に恐怖と共に伝わっていた。


「貴様ら!慄くな!ホーセズ様が貴様らにかけた情けを忘れたか!」


その証拠に、別の小隊長がこうして発破をかけるものの誰1人として眼前の侍に向かってはいかない。

皆わかっているのだ。




「ええい、なれば騎士たる私が!そこのサムライ、名を名乗れ!」

「お、いいねえ!武士っぽいね、騎士っぽいね。

マサヒコ・ミヤモト、機をカゲキヨ」

「ベック・マント、ワイルド=ハント。……ん?マサヒコ?

貴様、名に聞く世界最強の剣士か!だがホーセズ様のため恐れはせぬ!」


ワイルド=ハント。

最新の量産機、というだけあって多少は強い。

パイロットの腕も良い。

いきなり突撃してくるわけでもなく、間合いを測っている。

相対しただけでそれが分かるのが達人というものだ。


互いに詰めれば離れ、右に動けば左に動く。

ブルーノの、西洋甲冑のような顔の合間から緑眼が覗く。


(他のやつよりはちょっっとはできそうか。どれ、実力を見て見るか)



構えた刀を振るために、カゲキヨが一歩大きく踏み込む。

来るか!ベックがそう思い、反応する。


「出るのが早かったな!もらった!」


盾で左半身を守りつつ、前に向かって思い切り突く!

……が手応えはない。

目の前にいた影はそこにはいなかった。


「足元注意」

「ッ!」


ベックが見下ろすとそこに地面スレスレまでしゃがみ込んだカゲキヨがいた。

そこから力強く上方へ膝丸を振るい、ブルーノの右腕右足を斬り上げる。


「ニイちゃんはちゃあんと名乗ったからここでちゃんちゃん。

トドメは刺さんから、強くなってまた仕合うのを楽しみにしてるよ。オジサンは」


倒れゆく彼に振り返りもせずそう告げる。

真剣な眼差しで前のみを見つめている。


見えなかった。いや、"見えなくなった"。

そして一瞬で敗れたその事実に愕然とし、ベックは思考が停止せざるを得なかった。



「さて。他に戦いたい奴はいるか?

1人でも集団でも、構わないよ」


煌々と照る月の元、鎧武者の妖怪退治はまだまだ続くのであった。


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