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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter5 The Breaks
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第83話 猫耳ハッカー ~Another Brick in the Firewall~

「で、私が呼ばれたってワケ」

「軽口はいい。できんのかできねェのか」


銃を突きつけられている中、画面中をまさぐり暗号通信を調べる。



「にゃはあ!楽勝ねこの暗号!

テッテーして叩き込まれたこの解読能力、扱いをセンシティブにしてくれにゃきゃあ〜?

ここから帝国内部へすっぱ抜いちゃうわよん?」


愛らしくウインクしながら、彼女は語る。

正直ヒヅルもちょっとイイな……と思ってしまい彼女の顔をまじまじと見てしまった。

少し甲高い咳払いをしつつ、ミランダは優しくキャッフェに相対した。


「キャッフェさん。

もしあなたがこの内容を読んでくれたら、我々はあなたを捕虜としての従事ではなく、より良い扱いをしたいと思ってる。いかがかしら」


まるで母が娘に対するように、慈愛のこもったなだめ諭すような口調だ。


「んみゃ、そうねえ。どんな扱いなのかは保証がないけど?

やってあげなくもないねこの作業♡」


フン、とヒヅルの隣でウォルノが鼻を鳴らしそっぽを向く。

尻尾をピンと立ててるあたり……


「言い出しっぺはウォルノだよ?」

「う、うるせェな……それでも癪なだけだ」



対してミランダはほっと胸を撫で下ろしていた。

それもそうだろう。

確かに彼女は敵だが、いたいけな10代そこらの少女だ。

制限のある生活を見慣れぬ地で送らせ続けるよりも、平和に少しでも融通のきく上で争いと遠いところへ送り出してあげたいというのは、ごく一般的な大人としての感覚なのだ。


キャッフェが作業を続ける中、誰1人一言も漏らさない。

分析をするカタカタという音が、ジェイの突きつける銃の様子が、彼女に降り注ぐ視線が、緊張を高める。

そして


「できたわよん!ピッタリ10分。

このキャッフェ様にかかれば、この程度訳ないのよん♡」


顔の横で招き猫の仕草をして、ウィンクをする。

人は見た目によらぬとは言う。

その言葉は意外性を端的に表した表現でしかない。

だが、いざ目にするとその"見かけ"を作り出す複数の要素の絡み合いが、不安定で無関係なものを織り成した時、初めて人は見かけによらぬ、に落ち着くのだろう。


実際、敵の捕虜が可愛くて情報に強い。

これは戦争に身を投じている見目の良い女が、己の得意な技能を使ったに過ぎぬ。


見かけによらぬは、可愛さそのものではなくその活かし方だろう。

自分を可愛く見える手振りや距離感。

相手との心的な距離を見定められるアイドルのような、そんな女から繰り出されるアウトプットが、"泥臭い暗号通信の結果出力"というギャップ。


有機的な感情の揺さぶり挙動と、無機的な数字の羅列のアンバランスはまさに『見かけによらず』を誘発するに事足りる要素だった。



「で、どんな内容だったんだァ、猫さんよォ」

「焦らない焦らない!内容はね、『ヤバいよねこの艦』って話」


椅子から立ち上がり、淡々と語る。


「この艦が撃った主砲 ガーンディーヴァ。

その威力が戦術兵器として世界レベルでの物議になるかもしれない、ってこと。

要は非人道的兵器の禁止条約『ミトーラ条約』への違反。

その口火を切るために、ブラダガム帝国の大使がヴァッカ連邦に飛び立つそうよ。

条約の内容自体は、アタシも理解してないけどねん♪」


習ったことあるような気がしたが、ヒヅルは説明できなかった。

アキヒロと一緒にもっと真面目に勉強しておけばよかった、と思ってしまう。


「ミトーラ条約は、非人道的な大量破壊兵器・毒ガス・細菌兵器の利用を国際的に禁止してる条約だ。

無論、九重共和国も批准している。

違反をすることは国際的孤立、又は戦争犯罪人として処刑・処分もあり得る」


意外なことに、ヨシヒロが口を開いた。

極めて寡黙な彼だが、博識な一面があるらしい。


「つまり放置すれば我々全員が、世界中の非難を浴びて晒し首になる。

そうでなくても、共和国が世界の敵になる」


中立であるヴァッカ連邦が九重共和国の敵になり得る可能性は最低限、ということだ。

ブラダガムとヴァッカがカンナギの一件を機に同盟を組めばこの戦争は必敗。

そんなことはこの場の誰もがわかっている。

皆、押し黙る。


ミランダが親指を噛む。

ジェイが帽子を下げ、目元を隠す。

皆が、自分たちのとった行動の結果が最悪の結末を迎えようとしている、その重圧に耐えきれないのだろう。


そんなことは一兵卒のヒヅルにとて分かっていた。

だがヒヅルの心に湧きはじめた負の感情は、キャッフェの次の一言で吹き飛ぶこととなった。


「そうそう、送信者の署名がされていたわよん。

送り主の名は、『シキ・ヤサカ』」


【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「Another Brick in the Firewall」→ピンク・フロイドの楽曲『Another Brick in the Wall』をもじったもの。

余談ですが、キャッフェちゃん自体はモデルになってる友人の子がいます。

あとは「猫耳ハッカー」はハネウマライダーの語感。その時聞いてた曲から語感だけで選んだ




2 描写について:ミトーラ条約→ジュネーブ条約をはじめとする、兵器違反を決めた条約を元に。


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