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監禁探偵の産声  作者: 向陽日向
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事件編①

 被害者の名前は(めし)(かわ)英夫(ひでお)、七十八歳。四方木家に仕える召使の男性だ。館二階の一室で血を流して倒れているのを、この館に住む四方木家当主の長男、長久によって発見された。


 この館は兄弟たちだけで住んでいて、本家のお屋敷は遠い町にあるらしい。従って、住民は長男長久(ながひさ)長女聖子(せいこ)次男末次(すえつぐ)、そして今回犠牲になった召使の召川さんの四人のみ。


 一階リビングに集まった聖子、末次の前で、この場にいる全員の中で一番背が高い長久は堂々と首を振った。

「第一発見者を疑えとか言うけどよ、俺はやってねえからな!」

 そして、ピシャリと言い放つ。


「殺ったのは末次、てめえだろ?」

「なっ! そんな兄さん! 僕じゃないですよ」

 末次の訴えを面倒くさそうに一蹴し、部屋の隅に置かれたテレビにリモコンを向けた。天気予報を読んでいた男性キャスターがプツリと消える。


「てめえ以外、誰がいるってんだ! あと軽々しく兄呼ばわりするな。虫唾が走る」

 長久はまるで一族に仇なす敵を見つめるような鋭い眼光を末次に向ける。よっぽど止めようと思ったけど、虚澤が静止するのでわたしはぎゅっと拳を握りしめることしか出来なかった。


「……つづけたまえ」

 虚澤の声にヒートアップしたのは、到着から今まで黙り込んでいた聖子だった。

「……あたしも兄さんと同意見よ」

 思いもよらぬ発言に、末次は「うっ」と小さく呻いた。長久はよくやったと言わんばかりに口角をあげた。


「……なあ探偵さん方よ? これでわかったろ? 今回の事件の犯人はこいつだって」

「……そうだね」と、虚澤は首を縦に振りかける。「わかったことが一つだけあるよ」

 虚澤は佇まいを直し、腕を組んだ。

「君たち二人が末次くんのことをとても嫌っているということだ」


 虚澤の言葉がリビングのひんやりした空気に染み込んでいく。露骨に表情を歪めたのは長久だ。

 そのとき、隣の部屋から視線のようなものを感じた。二階への階段があり、扉が四つ並んでいるフロアになっている。


「……そう思わないかい? 亜美くん?」

「へっ?」

 いきなり話を振られアタフタするも、わたしは「コホン!」と咳払いしペースを取り戻す。

「末次さんが犯人だという客観的な証拠がございません」


 死亡推定時刻がはっきりしない以上、そもそも誰が犯人か厳密には絞り切れない。

 全員が共謀している可能性だってあるのだ。

 それなのに、一方的に犯人と決めつける長久と聖子に違和感を覚える。


「お二人は、末次さんへ何か恨みでもあるのでしょうか?」

 ちぃ、と長久の舌打ちが空気を切り裂く。

「――探偵さん、いいんです」

 口を開いたのは末次だ。彼は意気消沈とし、首を振った。


「僕、実は養子なんです。元々この家の者じゃない。だから、そう思われて当然なんです」

 末次の告白を受け、聖子はセミロングの茶髪の毛先を指でいじる。

「ほらね。やっぱりこいつ、四方木家に相応しい人間じゃなかったのよ」と長久を見つめる。「純真なひなみが懐いていたのだって、こいつがそそのかしたに違いないわ。あの子、素直だったから――」


「聖子、こんな時にひなみの話をするな」

 長久の貫禄に聖子は口をつぐむ。鋭い眼光そのまま、虚澤をにらみつける。

「とっとと解決して帰ってくれ。探偵――とくに貴様の顔など見たかないんでね」


「これはこれは失礼。もしかしてどこかでお会いしただろうか?」

 虚澤の質問に長久は答えなかった。

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