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監禁探偵の産声  作者: 向陽日向
1/10

プロローグ

ご興味をもって頂きありがとうございます!


この作品は『アフロディーテ探偵事務所シリーズ』の第三作目ですが、過去作との直接的なかかわりはございませんので、こちらからでもお楽しみいただけます!

 ひゅん、という空気を切るような音で目が覚めた。

「……ここは?」

 まどろみの中でズキンという痛みが走り、手首に目をやる。固い麻のロープが食い込み、赤い痕になっていた。


 そうだ――わたしは、

「監禁、されてたんだ」

 できることなら認めたくない。久しぶりに現場復帰したのにこのザマ。所長の冬香さんにどう報告したらいいのやら。


「そんなの簡単じゃん……」

 この事件が終わったら、もう辞めちゃおうかしら。

 自由な片方の手でスマホを操作する。窓から差し込む夕日で画面が見づらいけど、相変わらず圏外なのはすぐにわかった。


「わたしにどうしろっての?」

 私は亜美(あみ)。犯人に監禁されてしまったけれど、いちお探偵だ。


  *


「亜美くん、君は今回の事件をどうみる?」

 ぬかるみに足を取られないように緩い坂道を黙々と上っていると、隣を歩く探偵が不意に口を開いた。所々木漏れ日が差し込み、幻想的な雰囲気が山道全体に広がっていた。


「おそらく内部犯によるものかと」

 十月上旬、鳥たちがチュンチュンと朝の訪れを告げる中、わたしは山間部にある館に向かっている。いつの間にか冷たくなった朝の風が黒髪を撫でていく。


「ほう? 根拠を聞かせたまえ」

 風変わりな探偵がチラリとこちらを見る。彼の名は(うろ)(さわ)。飄々とした男だ。前の上司――既に死んでいるけど――とも仕事をしたことがあり、業界ではそれなりに知られた顔だ。

 今回の相棒になる――もっとも、探偵業に復帰したばかりのわたしにとっては上司みたいなものだけど。


「こんな場所までやってきて殺人を犯すのはリスクが高いかと」

「はっはは! これは面白い推理だ。しかし、少々探偵小説の読みすぎかな、亜美くん」

 虚澤は黒のシルクハットの位置を整え、ニヤリと笑った。


「そんなリスク、犯人にとってはなんでもないことなんだ。人を殺すのは人でも凶器でもない。その人が持つ混沌とした殺意そのものだよ」

 そして、物思いにふけるように天を仰いだ。前日に大雨を降らした灰色の雲はほとんど霧散している。


「二年前の事件もそうだった。犠牲者の中には今回の事件の一族もいた」

四方木(よもぎ)家の者が?」

 二年前に続いて今回の事件――わたしは久しぶりに背筋がゾワゾワする感覚を思い出し、コートの襟をギュッと閉じた。


 虚澤は饒舌に続ける。

「犯人はとても被害者たちに執着していてね。愛されていると勘違いしていたんだ。『僕を愛してくれた。だから愛して何が悪い』って純粋な目で私を見つめていたなあ」

「あの……そろそろ見えてきましたよ」

 わたしは虚澤を遮るように、木々の間から見える古びた茶色の屋根を指さした。


「おっと、失礼。では仕事に取り掛かるとしよう」

 わたしは頷き、ポケットの中に入れてある現役時代に愛用していた七つ道具をぎゅっと握る。

 十月五日、午前九時四十五分。事件発生を受けて虚澤とわたし――アフロディーテ探偵事務所の探偵(一応)、亜美は四方木家に到着した。


 虚澤が殺され、犯人に監禁されるなんてこの時のわたしは想像すらしていなかった。

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