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教師と、尋問



『わ、私に何をする気だ……!? 貴様ら、教師にこの様な無体を働くとは、は……放せ、放さんか!』


 どうやらそれまでアクアには【沈黙】の魔法が掛けられていたらしい。執事ディアマンテスがサッと手を一振りすると、アクアの顔の前に小さな魔法円が一瞬煌めいたと思うが早いか直ぐに消滅し、途端に息せき切ってアクアが喋り始めたのだ。


『本当にうるさいお方だ。これでは話が進まないではないですか、少し──大人しくしていて下さい』


 唾を飛ばし罵声を上げ続けるアクアにうんざりした表情で、ディアマンテスが何気無い仕草で首枷の鎖を引いた。すると何か仕掛けが施されていたのか、途端にアクアが苦しみ、汚らしい呻きを漏らし始めたのだ。


『う、ぐ、ぐごご──げえおお……』


 少し経ってから執事が鎖を緩めると同時にアクアが噎せ始めたところを見るに、どうやら鎖を引くと首枷が絞まる構造になっているようだ。ゼイゼイと喉を鳴らし息をするアクアは、ディアマンテスを睨むもののまた罵声をあびせようという意思は失われたらしく、大人しく黙った。


 その様子を静かに見守っていたアメリアが、頃合いを見計らってようやく喋り始める。


『──コホン。ええ、それでは始めますわね。アクア先生、準備は、いえ覚悟はよろしくて?』


 彼女の言葉に執事は薄い笑みを浮かべ、アクアも苦渋に満ちた顔でそれでも頷いた。


『ではアクア先生、正直にお答え下さい。もう一度言っておきますが、先程もお教えした通り、嘘をつくと苦しみが貴方を襲います。嘘をつき続けると命の保証はありません。──宜しいですね?』


『宜しいも何も、選択肢は無いのだろう。とっとと始めたまえ』


 アクアの返答に満足したのか、アメリアは微かに頷くと、それでは、と口を開いた。


『お答え下さい、アクア・マリーネ。──貴方はここ数年間で、生徒に便宜をはかりその見返りに報酬を受け取った事はありますか?』


 アメリアの質問に、アクアは驚愕の表情を顔に貼り付かせて沈黙した。余りにもストレートな問いに、スクリーンを食い入るように見詰めていたゴールディ達も驚きに目を剥いて息を呑む。


「何と言う明け透けな質問を……。確かに幾人かの教職員が賄賂を受け取っているのは間違い無いだろうが、それを堂々と本人に訊くなどと」


 王子が漏らした呟きに、しかしスティールは心の中で疑問を持った。──賄賂が行われているのは公然の秘密だが、アメリア達はその程度の事でアクアを糾弾しようとしたのだろうか? ただ嘘をついた際の例として見せる為だけならば、何もわざわざアクアを使う必要は無いだろう。ならば──。


 スティールが眉間に皺を寄せて思考を巡らせている間にも、アメリアはアクアに問い掛けを続けていた。しばらく沈黙を守っていたアクアだったが、観念したように口を開く。


『……ああ、ある。だが、それがどうした。私だけでなく他にも賄賂を貰っている教師はいるだろう? 私だけが尋問されるのは心外だ』


『そうですわね。他にも学院内で何名か、金品を受け取っている教職員が存在するのは事実ですわ。わたくしも把握しております』


『ならば何故、私だけがこのような目に……ひ、ぐ、おごごご』


 またも状況への怒りをアメリアにぶつけようとしたアクアが、苦悶の叫びを上げる。執事は愉悦の笑みを口許に浮かべながら、引いていた鎖を直ぐに手放した。


『アクア様、勘違いなさっては困ります。質問しているのはお嬢様の方です──どうぞお立場をご理解下さい』


 慇懃ながらも有無を言わせぬ執事の言動に、噎せながらアクアは何度も頷いた。わかった、と掠れた声出言うアクアの顔にはもはや反抗の色は残っていない。


『では続けますわね。──その報酬ですが、金品以外のものを、アクア先生自ら生徒に求めたことは?』


 びくり、とアクアの肩が揺れた。


 やはりな、とスティールは心の中でだけ納得する。学院の裏の事情にも詳しいスティールの脳裏には、アクアに関する或る噂が浮かんでいた。


『……な、……ない……』


 アクアが絞り出すように否定の言葉を吐いた瞬間、アクアの胸許に紅い光を放つ魔法円が浮かび上がった。それはまるで脈打つかのように、強く明滅を繰り返す。


『ひ──!?』


『あらあら、嘘をついてしまったようですわね? 嘘をつくと、心臓の位置に埋め込んだ術式が自動で発動する仕組みですの。ホラ、撤回するなら今の内ですわよ?』


 魔法円が一際強い輝きを発した瞬間、ビクンッとアクアの身体が跳ねた。


 ひきつけを起こしたかのようにアクアの手足が突っ張り、痛みに反らした喉から耳を塞ぎたくなるような叫びが迸る。


『イギャアアアアアァアアッ! ヒッ、アッ、ガッ、イギアガガガガガガガアアアアァアッ!』


『ほらほら、早く訂正しませんと……』


 そこで一旦言葉を切ったアメリアの口許が、少しだけ、ほんの少しだけ綻んでいるかのように、ゴールディには見えた。


『……死にますわよ?』


  *



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