05話
展開が結構進みます
アリスちゃんに手をひかれて体育館を抜け、先生もいなくなると。アリスちゃんは慌ててこっちに振り返る。
ちなみに、私はたぶんそうするだろうなって分かってた。
流石に体育館を抜けてすぐに話をするわけにはいかず、目を合わせる。それだけで、伝えたいことはなんとなく伝わる。
アリスちゃんはすぐにまた前を向いて、私の手を引いたまま少し早足で歩いていく。細い足はリズムをとっていて、スキップでも始めそうなくらい。
教室に帰るための面倒臭い階段も、今のアリスちゃんのテンションならまったく苦ではない。私もそれに影響されて、苦ではなくなった。
もともと学校は苦ではないし、今日の始業式だって楽しみにして来た。下の子達とまた遊ぶこと楽しみだったし、今日はたぶん難しい勉強もないから、辛いんだろうなと思うこともないとは思ってた。今までが楽しくなかったわけではないのはそう。
だけど、新しい先生が来るとなると話は別。たったそれだけでここまで楽しめるのも結構すごいことだと思うけど、この学校にとって新しい先生が来るっていうのは転校生が来るくらい大きなイベントだと思う。
不安らしい不安はまったくなくて、ただ楽しみな気持ちしかない。アリスちゃんにとって分からないことは不安なんじゃなくて楽しみなことになるらしい。
ちなみに私はそんなことなくて、怖いものは怖いし、不安なものは不安。もし怖い先生だったら、とか。宿題が多い先生だったら、とか。そんなことも思わないわけじゃない。
けど、目の前の友達がまったくそんな不安を持ってないと感じるから、私の不安も小さくなってくる。
2階に上がる頃にはもう私たちは縦の列になっていなくて、手を繋いで横に並んでいた。4,5年生の教室の前を通るけど、もうその教室は新しい担任の先生が前に立って話をしてたから、こっちなんて見ていなかったと思う。見られていたらちょっと恥ずかしいけど、たぶん大丈夫。
横に並ぶとすぐに、アリスちゃんに話しかけらた。今まで話したくてうずうずしていたみたい。私も、アリスちゃんと話したかったんだけどね。
「ゆいちゃん!」
アリスちゃんに話しかけられて、私も笑顔で頷く。
すぐそこは私たちの教室で、入れば普段通りお喋りできるんだけど、それすらも待てないのかあんまり大きくない声で私の名前を呼んでくれた。
ただ、やっぱり廊下じゃお喋りしにくいから。今度は私がアリスちゃんの手を引いて、教室の扉を開ける。ちょっとがらがらと音が鳴るけど、横開きの扉は問題なく開いて教室の中に入る。
教室に入ってすぐのところにあるスイッチで電気をつけて、朝と同じ席のところに来る。アリスちゃんは窓側、私は廊下側。アリスちゃんは待ちきれないのか、座ろうともせずに話しかけてくる。
「どんな先生かな?私はー、女の先生だと思う!それで、優しくて〜、宿題がなくて!あと、背がおっきくて美人さん!」
「宿題がないのはアリスちゃんがそうしたいだけなんじゃないの?」
「む〜!でもゆいちゃんもあるよりはない方がいいでしょ!」
まあ、実際そうなんだけど。
アリスちゃんはずっと何を話そうか悩んでたみたいで、いきなり自分が考える新しい先生を話してきた。
「アリスちゃん!アリスちゃんはどんな先生がいいの?」
「んー、そうだなー…」
突然アリスちゃんは私の考えを聞いてくる。別に急かされてるわけじゃないけど、そわそわするアリスちゃんを見てるとなんとなく早く答えなきゃ、っていう気持ちになってくる。
けど…ふと思いついて、こう返してみる。
「うーん、そうだなー…思いつかないこともないけど、うーん?むずかしいな〜」
と、わざとらしく首をかしげてみる。ちなみに、話が言ってる言葉はわかりやすいくらいに棒読み。
私の考えを待ってたアリスちゃんは、餌をお預けになった子犬みたいにびっくりして
「ええ〜!?ゆいちゃん、絶対思いついてるでしょ!はやく教えて〜!」
なんて、ずっと繋いでいた手を強く握られて、ぶんぶんと振られる。ちょっぴり痛くて、けどそうやって怒るアリスちゃんを見てると…なんだろう?とっても微笑ましいような気がする。やっぱりアリスちゃんは6年生より幼く見えちゃう。
「からかってるでしょ!もー!」
そんな風に私が考えてると分かったのか知らないけど、更に腕に力がこもる。さすがにちょっと痛くて、あとこれ以上お預けにすると怒っちゃうかもしれないから、そろそろ答えることにする。
「アリスちゃん痛いよ〜…。ちょっと待って、話すから〜…」
「む…これ以上待つのはなしだよ!」
ちゃんと痛い、って伝えたらアリスちゃんはだいたいやめてくれる。私が話す気になったことが分かると、手の力を緩めて聞く姿勢。アリスちゃんはお喋り上手だけど、聞き上手でもある。
「私は、魔法使いの先生がいいな」
「魔法使い!」
はっとしたように、アリスちゃんは目を輝かせる。
「この学校だとあんまり魔法の授業ないけど、それでもやっぱり魔法使ってみたいの。普通の魔法が使えないわけじゃないんだけど…専門?じゃなくても、教えてくれる先生がいてほしい」
「!…うん!魔法使いの先生!」
この学校…南小学校の先生は、去年の担任の先生もそうだったけど全体的に年齢が高い。魔法が学校の授業になったのなんて私が生まれる時くらいだから、その授業を教えられる先生もいない。
別に魔法の授業は中学校になってから始めるものなんだけど、北小学校とかなら若くて魔法の授業を教えられる先生もいるから小学生のうちからやる。と言っても、ちょっとした活動程度なんだけど。ただ、たまに北小学校の人に話を聞いてると、楽しそうだなって思うし、やってみたいとも思ってた。
それに、私が今話を聞いてくれている最高の友達と出会えたのも魔法のおかげ。魔法は願いを叶えるもので、とっても素敵なもの。
今はまだ私もアリスちゃんもちょっとした悪戯にしか使ったりしかできないけど、この魔法でいろんな人たちと会ったり、いろんな場所に行ったり。ちょっと難しいことかもしれないけど、魔法に触れるだけで楽しめるから、魔法使いの先生がいてくれたら更に楽しくなると思う。
アリスちゃんは凄く納得したように、首を縦にぶんぶんと振っている。アリスちゃんも魔法は大好きなのは私と変わらない。
お父さんもお母さんも魔法を使ったりする仕事だから、2人で一緒に時々教えてもらったりする。その時も2人ではしゃぎながら魔法の練習をしてた。
「すごいゆいちゃん!魔法使いの先生!魔法使いの先生がいい!」
今までで一番のハイテンションでアリスちゃんに納得されて、びっくりしつつもとても嬉しく感じる。最高の友達がこれだけ頷いてくれるっていうことが私にとってはとても嬉しい。
「でも、魔法使いの先生が来るかはわかんないけどね──」
と、言いながらふと気づく。アリスちゃんを見ていた目が、その後ろに
「どうしたの?ゆいちゃん?」
「アリスちゃん、カーテン閉めたっけ?」
「んー?」
ふと、何か暗い気がするな、と思って。カーテンが閉まってる。朝教室から出るときは開けてた気がするんだけど。まあ、たぶん誰かが閉めたのかな。
「私、開けてくるね」
いい天気だし、カーテンを開けないのはもったいないと思って。私はカーテンを開けるためにそっちに向かう。
「ん、手伝うよ!」
アリスちゃんは優しいから、手伝ってくれる。両開きのカーテンだから、手伝ってくれるととても楽になって、私は頷いた。
おかしいな、ともちょっと思ったけど。まあ特に何かするでもなくカーテンを2人で向かった。