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魔法使いの召喚詠唱  作者: 煙草の吸い殻
4/5

04話

 私がアリスちゃんに手を引かれて、体育館に向かう。6年生の教室は2階の一番端っこだから一番遠いんだけど、一番最初に行かないといけないから、10分前には教室を出る。


 別に一番最初に行かないといけない決まりなんてないんだけど、昨日──始業式の前日──からアリスちゃんが「6年生らしくなりたい!」って言い始めたから、それに巻き込まれる感じになった。アリスちゃんは5年生の時からあんまり小学校高学年には見られなくて、それを気にしてる。見た目、身長がちょっと低かったり、顔が幼かったりするのもそうなんだけど、話し方とかが子供っぽかったり、我が儘だったりする部分もあると思う。って、アリスちゃんに言ったら


『じゃあ6年生らしくする!というかもうちょっとかっこよくなる!』

『今日は一番最初に体育館に行く!』


っていうことを言い出した。まぁ、当然覚えてなくて。手を引かれながらそのことを言ったら、アリスちゃんは『忘れてたー!ありがとゆいちゃん!』って感謝された。変に意地を張らずに素直なのは子供らしくないことのはずなんだけど、アリスちゃんが言うとなんだか子供らしく見える。

 まぁ。たぶん6年生らしくするなんてことはもう頭の中にないと思う。だって、さっき先生に、担任を秘密にされて拗ねてたし。


 基本的にこれだけ人が少ない地域だと時間にはそんなに厳しくなくて、そのおかげで下の子達は時間ギリギリに来る。先生もそんなにそのことについて注意しないし、むしろ先生やお客さんも時間ギリギリに来るから、注意しようにも仕切れないんだと思う。

 先生だけじゃなくて、この地域の人はみんなそう。一面に田んぼや畑が広がるってわけじゃないのに、やっぱりここは田舎なんだと最近感じる。時間に、良く言えば優しくて、悪くいえばゆるい。将来のことはよく考えてないけど、大きくなった時に不安だって言う人もいる。まあ、そんな人が時間をちゃんと守ってるかと聞かれると、そうじゃないんだよね。


 体育館に着くと、もう先生が数人いた。会場も作られているんだけど、生徒の人数よりお客さんの人数の方が多い。

 流石に体育館に入るとアリスちゃんも手を繋ぐのはやめて、2人で並んで列を作る。教室の時みたいなおっちょこちょいはなくて、ちゃんと去年6年生が並んでいた列に並ぶ。


 普段のちょっとした集まりなら先生に挨拶したり、下の子達とお喋りすることもあるんだけど、流石に始業式はアリスちゃんも私も黙ってる。アリスちゃんは子供っぽかったり我儘だったりするけど、空気が読めないとかそういうわけじゃない。


 しばらくしたら、下の子達が体育館に来る。時間は8時58分。9時から始業式が開始なはずなんだけど、集まるのが9時を過ぎることもよくある。流石に始業式はそんなことはなくて安心した。本当は当然のはずなんだけど。

 

 時間通りに先生も下の子達もみんな集まりはしたんだけど。お客さんもこの地域の人達だから、結局少し待つことになった。待ち時間には下の子達が退屈そうにしている。あとアリスちゃんも。まだ話し始めてすらいないのに、これで大丈夫なのかな。


 結局、みんなが退屈でお喋りしだす前にお客さんは来た。今年は入学式がないから、始業式にちょっとお客さんが来る。一番下の子が入ってこないのは前から知ってたけど、少し寂しい。私が3年生の時もそうだったけど、その時はあんまり感じなかったな。たぶん、アリスちゃんと一緒に初めて学年が上がるから、そっちしか考えてなかったんだと思う。


 遅れたお客さんは少し頭を下げるくらいで、特に何か言ったりするわけじゃない。それに、他の人もそれに何か言ったりもしない。一番何か言いたいのは、何もすることがなくて退屈な下の子達(とアリスちゃん)なんだろうな。





 別に6年生になったからと言って始業式変わったことは何もなくて、ただ退屈なだけで終わった。先生の話は正直退屈だけど、何もしなくていいから楽ではある。ずっと座っていると、春にしては少し寒く感じたくらい。

 始業式が終わると、お客さん達はすぐに帰っていった。お客さんの人数は少ないけど、椅子の片付けはやっぱり人数の少ない6年生がやらないといけないから、結構大変だな、なんて思う。



 そして、この次はアリスちゃんお待ちかね、担任の先生の発表。わくわくしてるのはアリスちゃんだけじゃなくて、下の子達も、あと私も。嫌いな先生がいるわけじゃないんだけど、好きな先生になってくれたら嬉しいと思うのは当然のことじゃないかな。特にアリスちゃんなんて、ふわふわの金髪がちょっと揺れてる。後ろから見ててもそわそわしてるのが分かるのは、ちょっと面白い。



 教頭先生がどんどん先生を発表していく。この地域では新しい先生が来ることはほとんどなくて、生徒も先生も数も少ないから学年の担任の先生が替わるだけで大きな変化はない。どんな先生も、全員の顔と名前を覚えてるから誰になっても自己紹介もいらないくらいだし。

 今朝の、私達の担任をしていた先生は2年生の担任になってた。あ、こうなるんだ、みたいなことを思いながら聞いていく。と言っても、今年は1年生がいなくて人も余るし、ほんとに何も変わらないと思う。6年生の担任の先生は一番最後に発表だし…あれ?


 私の学校は、今年は4年生と1年生がいない。去年の先生は、5,6年生1人、4年生1人,1,2年生1人。

 今年は1年生の担任がいなくて、2,3,5,6年生があるんだけど。よく考えたら、1人足りない。去年は5,6年生が一纏まりだったから何も考えてなかったんだけど、よどうするんだろう。


「6年生の担任は、新しい先生になります」

「諸事情により到着が遅れているので、6年生の生徒は教室で待機していてください。」


 アリスちゃんの体がちょっと震えた気がした。いや、実際震えてたのかも。だって、それを聞いて私だってかなり驚いたんだもん。声を出さなかったのがすごいって感じるくらいには。

 前から言ってる通り、この学校は人の移動がなくて、悪く言えば変わらない学校。先生もいい人ばっかりで不満はないんだけど、新しいことが大好きなアリスちゃんはいざ新しい先生が入って来ると聞いて興奮しているはず。アリスちゃんに影響されやすい私も新しいことが嫌いなわけじゃなくて、むしろ最近は好き。

 どんな先生が来るかな、男の先生かな、女の先生かな。身長は高いかな、優しいかな、宿題の量は多いかな。

 気になることはたくさんあるけど、とりあえずアリスちゃんとお話ししたい。座ったままアリスちゃんの後ろ姿を見る。アリスちゃんはみんなと同じように三角座りをしてたけど、ぎゅっと体を丸めて興奮を抑えた後に手だけを後ろに伸ばした。

 私はそれに手を置いて、握る。教室を出るときに感じた安心するって感じじゃなくて、私とアリスちゃんが一緒のことを楽しみにしてるっていう喜び見たいなのが感じれた。

 それに答えるように、アリスちゃんに手をぎゅっと握られる。ちょっと体勢が辛かったから、別に先生くらいしかいないし、と思って少し前に出る。


 下の子から呼ばれて帰っていってるけど、6年生は一番後。あと数秒だけ座っててもいいと思って、この何も話さない時間を感じる。前に出たらアリスちゃんの髪の毛からいい匂いがしてきた。同じシャンプーを使ってるはずなのに、私よりもいい匂いがしてる気がする。アリスちゃんも私が近づいて来たのを感じたのか、我慢できなくなったのか。はっと後ろを向いて、満面の笑みを見せた。つられて、私も笑って返す。


 6年生、と呼ばれると手を握ったまま立ち上がって。アリスちゃんに手を引かれて教室に帰る。こっちに来るときと一緒だけど、来るときよりももっと嬉しそう。


 新しい先生が来る、ってだけでこんなに楽しみになるの、ちょっと子供らしいなって思う。それは、アリスちゃんだけじゃなくて、私も。

 私が召喚したアリスちゃんだから、結局は感じ方も私に似てる。子供っぽいのは私なのかもしれないな。

 手を引かれて教室に帰るなんて、下の子がいたら絶対できないけど、最後だから先生以外誰も見てない。そのままアリスちゃんに手を引かれていった。早くアリスちゃんとお話ししたいから。

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