四話 化け狐
妖の世。
闇に包まれたその世界で、怪しげな光を灯しながら妖怪達は暮らしている。
妖怪には決められた掟がある。
その掟を犯せば、巫狐一族によって裁かれる。
巫狐は、古来より妖の世の掟を守る一族。
掟を守る彼女らは、自身でさえも数多の掟に縛られていた。
そして今日。一匹のルールを破った狐が罪の秤場に呼び出されていた。
狐の名はミツキ。
数日前、妖の世へと迷い込んだ人に自らの名前を教えた愚かな狐だ。
狐の顔色は悪く、体を震わせているようだった。
「聞こう。何故、人に名を明かした」
おどろおどろしい声が聞こえた。
「答えぬか!馬鹿者!!」
先ほどとは違う激昂した声が響き渡る。
「弁解の余地もありません…。私の身勝手極まりない行為です…」
狐は震えた声で答えた。
「その通り、貴様の身勝手極まりない行為だ。我々としては貴様の愚行を決して許すことなど出来ぬ」
おどろおどろしい声は告げた。
「貴様の持っている妖を抹消する為の鈴。それを使い消えよ。以上だ」
辺りから気配が消え、一匹の狐だけがそこに残された。狐は鈴を握りしめて罪の秤場を後にした。
狐は涙を頬に流し歩いていく。
消えることへの恐怖。教えてしまった後悔。生きたいという願い。
そんな感情が狐の涙を流させ続けた。
狐は当てもなく歩き続けた。
そして気づけば現世へと繋がる、あのアフロと別れた場所に立っていた。
この日、妖の世から狐が消えた。
現世に繋がるあの場所に、1つの鈴を残して。
四話 化け狐