三話 助かって、そして忘れて
三話 助かって、そして忘れて
「…おい!」
何処からか声が聞こえる。
「起きろ!アフ郎!」
聴き慣れた声がした。
視界が覚醒する。
「アフ郎!目が覚めたのか!」
目を開けると、親友の鶴崎が顔をぐしゃぐしゃにして俺を覗き込んでいた。横には溺れていた少年もいた。
「お、おう」
「良かった…本当に、良かった!!」
「皆さーん!こいつは無事です!ご心配おかけしました〜!!」
鶴崎がそう大声で叫ぶ。
すると、何処からか集まったのか大勢の人が歓声を上げ手を叩いた。
どうやら俺は少年を助けようと河へ飛び込んだあと、気絶してしまっていたらしい。
「うぅ…」
「大丈夫か?だいぶ長いこと水の中にいたからな…」
鶴崎が心配そうな顔で話す。
「あぁ、サッパリ記憶が無いが大丈夫だ。お前が俺を引き上げてくれたのか?」
「それが俺にも分からないんだ。河の勢いが思ったより強くて俺も溺れかけてたからな。だが…」
「だが?」
「気づいたら河原でお前と少年と俺の3人で横たわってた」
「はぁ?なんだよそれ」
「俺が聞きたいくらいだよ、まぁ無事だから良かったじゃねぇか。さっさと家に帰ろうぜ」
鶴崎はそう言って手を差し出した。
「おぅ!」
俺はその手を掴み、立ち上がる。
鶴崎の手が、やけに冷たいのが印象的で
「ぶぇっくしょん!」
鶴崎はくしゃみをしていた。
俺は家に帰る。
何はともあれ生きてて良かった。
少年も生きてて万々歳だ。
…そう言えば、気絶してる間に夢を見た気がする。
「どうしたんだよ」
「いや、何でもねぇ」
俺は『忘れて』しまっていた。