二話 狐面の女
鈴の音が止んだ。
俺を掴んでいた化け物はもういない。
「た、助けてくれたのか!」
「ルールですので」
「そうか、でもありがとう!ルールというのはよく分からないが、君のおかげで助かった!」
「はい」
狐面の女はここから出してくれると話した。
俺は彼女に続いて歩き始める。
「なぁ、ここは一体何処なんだ?」
「ここは妖の世。貴方達が住む場所とは異なるもう一つの世界です」
妖の世
聞いたことが無い。まるで御伽噺だ。
「じゃあ街を歩いてた着ぐるみは」
「着ぐるみではありません。彼らは妖」
「じゃあ君も妖なのか?」
妖…。そんな気はしていたので驚かなかった。
それよりも前を歩く彼女が気になっていた。
「…はい」
彼女はそう返してくれたが後ろで歩く俺に振り向く事は無かった。
「えっと…君の名前は?」
「名乗れません。ルールですので」
「そ、そっか」
その後も彼女に質問をしたり、気を引こうとしたが彼女は興味無しといった様子で歩き続けていた。
そして…
「こちらが現世への帰り道です、行きなさい」
「分かった」
「現世に戻る際、記憶などは消去されますのでご理解お願いします」
そうか。つまりここで俺の初恋は終わるんだな。
「ここまでありがとう」
そう言って自分のいた世界に帰ろうとする。
が、どうにも足が進まない。
このまま帰ってもいいのか。
一目惚れした女に思いを伝えないままでいいのか!
そんな思いが足を進ませなかった。
「??」
彼女も不思議そうに首を傾げている。
可愛い。俺は決意する。
彼女の元まで近づき、彼女の手を取る。
「一目惚れしてしまいました。好きです」
アフ郎、告白。
その後訪れる強烈な痛み。
「ぎゃふん!」
「い、いきなりなんて事言ってるんですか!まだ会って数十分しか経っていませんよ!?」
「そうですよね、あはは…」
「さぁ、早く行ってください!」
アフ郎、失恋。
涙を流しながら現世への道を歩いていく。
「ミツキ…」
後ろの方から声が聞こえた。
「私の名前です…。どうせ記憶は無くなりますので…」
「ミツキさん!」
アフ郎、歓喜。
「絶対にミツキさんの事忘れません!」
そう言って走り出す。
「忘れませんからあ!!!」
こうして俺は『妖の世』から帰還したのだった。
二話 狐面の女