影響
偽黒ジャケットが行った地盤破壊は、前も言ったように、偽黒ジャケットと鎧の男の場所のみならず、第一防衛基地全体に影響を及ぼした。
それすなわち、同じく第一防衛基地周辺で戦闘を行っていたグリードウーマンと藤崎橙子にも、被害が及ぶことを意味していた。
「あなた……この記憶はっ……!? これは……!?」
地面がガコンと下に揺れ、股が寒くなる感覚を覚えると、すぐさま地震と思われる揺れが発生する。
(こんなの新潟派閥に聞かされてない……まさか、東京側の?)
ある程度何でもして良いとは言われたが、少なくとも、地盤が割れ、地震が起こるとは聞いていない。そもそもこちらは我々の領土。つまり、東京側の仕業の可能性が高い。そう踏んだ私は、先ほどまで交戦していた橙子を見る。
「な……何なのこれ……!?」
(あいつも動揺している……)
つまり、東京側からしても、これは不足の事態。そこから考えられる結論としては……
(まさか、このタイミングで地震の自然発生?)
現時点でこのような混乱を招くのは、双方にとってプラスがない。だとすると、こう考えるのが自然だ。
(まさかこちら側で、自分たちの基地をぶっ壊すやつがいるとは思えないし……あ)
「待て!」
割れた地面の影に隠れ、私から見えなくなった瞬間、飛び上がって木々を移動し、猿のように移動して逃げようとする橙子に向かって飛び上がり、一気に近づいて、飛び蹴りを行う。
橙子は頭を下げることで回避するが、私も空中でくるりと回転し、近くの木の枝に着地する。
足との摩擦で気が焦げる匂いがする。木の皮が足をピーラーがわりにして捲れ上がる。
「やっぱり。ヘンテコな能力はあるみたいだけど、身体能力は私に及ばないようね」
「…………」
結果としては外れてしまったものの、橙子は何回も木から木に飛び移ってやっとなのに対し、私は飛び上がって一発で橙子まで移動できた。
身体能力の差は明白。テクニックでは同等。ならば、わざわざ人間レベルの戦闘にとどまらず、人外レベルの戦闘をすればいいだけの話。
「そのヘンテコ能力はよくわからないけれど……あなたの弱点は割れたわ」
「……ッ!」
こうなってくると、橙子は間違いなく、1歩前に出れば、足を踏んでしまう位の距離感で戦ってくる。そう思って橙子の次の手に注目していたのだが……
「……は? 逃げ……た?」
なんとまさかの逃走。有利にも、不利にもなっていない状況下で。天敵から逃げる脱兎のように、私に背中を見せて逃走したのである。
「てめっ……待て!」
もちろん、それを逃すわけもなく、木の枝を犠牲に飛び上がり、すぐに橙子の元へとたどり着く。
「ッ……」
「なん!? ちょこまかと……!?」
そうなると、またすぐさま私から距離を取り、逃走。逃走。逃走。完全な逃げの一手。
「……はぁ?」
(なんで……? まだまだ始まったばかりなのに!)
理解不能な行動に頭に血が上った私は、らしくなく大声で叫んだ。
「お前ッ!! なんで逃げる!! 何故戦わない!! この腰抜けが!!」
すると、橙子の体がピタリと止まり、首がこちら側に動こうとしたが、それを振り切るように頭を振り、また逃げ出し始めた。
「なん……!! ぎ、が、ががが……!!」
ありえない。ありえない。ありえない。理解不能な感情と、彼の障害になるであろう女を止められない悔しさ、そして何より、目の前にご馳走があるのにフォークで刺せないむず痒さが、言葉となる前に喉奥から上昇し、うめき声となって口から溢れ出す。
どう考えても戦えないほどのダメージは負っていない。なのに。
そのもどかしさが溶けたのは、橙子を追い、木の枝に着地した時だった。
「痛……目に何か……」
先ほどまで橙子がいた木の枝に着地すると、目に何か、水のようなものが入りこんだ。
「しみる……雪の雫じゃ、ない……?」
明らかな違和感。目を伝う感覚神経が、脳に向かって痛みの信号を発していた。
つまり、これは雪ではない。もっと別の場所から発生した目に染みる液体。
「……汗?」
もどかしさが、疑問に変わった。
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