期待以上
伸太が第一防衛基地を崩壊させたその時、最終防衛基地では、司令室にて、伸太が第一防衛基地を叩き潰した、その瞬間がモニターで映されていた。
「っ! 四聖、太刀川陽一! 黒ジャケットにより死亡!」
「第一防衛基地。反応ロスト――っ!? 第一防衛基地……崩壊しました……」
あまりにも唐突すぎる反応ロストと、東京派閥の実力者、四聖の死亡。さらにモニター越しに起きた惨劇に、オペレーターの声も徐々に暗く、しょんぼりとした声に変わっていった。
しょんぼり。なんて言葉では形容しきれないような、もっと悲惨な出来事が起きている中で、東京派閥の司令官。新潟派閥で言うところの亮介ポジションの人間は、あまりにも理不尽、かつ夢の中のような出来事に、頭を抱えるどころか真っ白になり、口元からよだれを垂らしながら椅子に勢いよく座り込み、足は物音を立てながら着地した。
(……………………)
「……………………」
何も、何も思い浮かばない。司令官の頭の中はまさに真っ白。大画面のモニターに映る大きなクレーターは、先ほどまで我が軍の第一防衛基地があった場所。
「……………………はぁ、あ、あ、うはあ」
しかし、人間と言うのはよくできていて、だんだんだんだんと、モニター越しの光景が一体何で、どういうことが起きたのかを頭の中にインプットさせてくる。
「司令……指示を……」
オペレーターから力のない要求が飛んでくる。それは頭の奥深くへゆっくりと浸透し、「何か指示を出さなければ」という形で頭の中に染み込んだ。
(……ど……ど……どうする……? とりあえず、偵察部隊を向かわせて……)
「て、偵察部隊を向かわせろ! すぐにでもだ! 生存者がいたら、救出しれ……しろ!」
しかし、状態で出せる指示など、気の利いたものではないことは明白。ろれつもうまく回っておらず、よだれの溜まった口で虚勢を張り、叫ぶように指示を出した。
「ふふ……まぁまぁ、落ち着いて……叫んでも良いことなんてありませんよ」
そんな司令官の肩に手を置き、落ち着かせるようになだめる存在が1人。
「ぐ……い、異能大臣……」
何を隠そう、派閥の最高権力である異能大臣だ。
なぜ、自室や会議室が主戦場である異能大臣が、最前線に指示を出す司令室に居るのかと言うと、少し前に異能大臣が司令官に直接頼み込み、司令室に少しの間居させてもらったのが原因である。
「く……防衛基地が壊され……くく……第一防衛ラインが維持出来なくなったのは残念ですが……くく」
落ち着かせる言葉を言っている異能大臣も、何やらもう片方の手で口元を押さえていて、不自然な感じになっている。
「うっ……そ、それもそうですな……」
「く……そうそう……くくく……」
異能大臣まで不自然になってしまっている理由。それはモニターに映る惨劇でも、司令官のろれつの回らなさに笑いを堪えているわけでもない。
異能大臣は少し前から司令室にいる。第一防衛基地の破壊と四聖死亡は直前に落ちた出来事。つまり、異能大臣は田中伸太もとい、黒ジャケットの戦いを見ている。
(信じられない! 信じられない! ポテンシャルも高く、成長しているとは信じていましたが……素晴らしい! 期待以上だ!)
異能大臣が興奮し、笑みを浮かべずにはいられなくなるのは、当然のことであった。