騎士
「……騎士ぃ?」
騎士という聞きなじみのない言葉に、俺は首をひねって言葉をこぼす。
騎士と言えば、東一時代に何度も顔を合わせた護衛騎士団や、少し違うかもしれないが、神奈川派閥のチェス隊が思い浮かぶが、ハカセの言い方的に、そこら辺とは違うのだろう。
おそらく全く別の……特別な何かなのだろう。
「その反応を見るに、知らんようじゃな……当然と言えば当然なのじゃが」
「なんだ? その騎士って」
1人で悩んでも仕方ないので、俺はハカセに質問し返す。
「騎士……は……そうじゃな。その話の前に、ワシの目標を覚えておるか?」
目標……おそらく、戦争に行く前にあった車の中での会話の事だろう。それなら覚えている。
「ああ、忘れ物を取り戻したいってやつだろ? それが何なんだ? ……まさか、その忘れ物ってのが騎士なのか?」
それなら説明がついたのだが、ハカセは首を横に振り、俺の仮説を否定する。
「違う……じゃが、惜しい。ワシの忘れ物は、その騎士が守っている物なんじゃ」
「守る……? その忘れ物ってのは、東京派閥にあるって言ってたろ? だから騎士ってのは、東京派閥を守ってるんじゃないのか?」
「確かに東京派閥も守っておる。しかし、それは後から与えられた役割じゃ。元々の作られた目的は、それとは大きく異なる」
ハカセは焼かれた焼肉を1つトングで取り、ハカセの椅子の横に置かれていた生野菜たちの中からキャベツを選び、葉を取った。
「前に話した忘れ物と言うのは、東京派閥にとってもまぁまぁ大事なものでの……他に取られるわけにはいかぬ。じゃからそれを守るために作られたのが騎士。守るための存在じゃ」
なるほど。大体は理解した。ただ、一点だけ気になることがある。
「さっきから言ってる作られたってのはどういう意味合いで言ってるんだ? ハカセの言い方だと、まるでゼロから生み出されたように聞こえるんだが」
「そういう意味じゃ。騎士はゼロから生み出された存在。人の手によって生み出された完全な有機物」
「……ロボットってことか?」
「正確には人造人間に近いの」
「作られた存在……そんなものが強いのか?」
世間一般の考え方として、スキルは人間以外に宿らない。大阪派閥という稀なケースはあるが、あれも元ある生物にスキルをぶち込んだに過ぎない。ハカセは人造人間と言ったが、完全な有機物ならば、本質的には機械と大差ない。
つまりスキルは宿らない。
「ククッ……顔が歪んでおるぞ、伸太が言いたいことが透ける透ける……手に取るようじゃ」
ハカセはペストマスク越しにケタケタと笑い、焚き火で焼かれた1枚の肉を取り、俺の皿に乗せた。
「ま、会ってみればわかるぞ……この戦争にいたらな。ホレ、肉じゃ」
「……そうだな。楽しみにしておくよ」
「ワウン!」
その日、俺は腹がはち切れんばかりに肉を食い、爆睡して日を終えた。