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黄金の時

「……あ……が……」


 かける言葉が、何もない。


 その場にいるわけでもないのに体が固まる。腰掛けていた椅子から自然と立ち上がり、中腰で硬直する。


 歳をとってからの永遠の悩みである腰の痛みなどどうでもよくなるほど、鉄球の先から見る光景は、ワシにとってあり得ない()()だった。


 拳を敵に振り下げただけだ。誰でもやる攻撃をしているようにしか、ワシの目には見えなかった。


 それが次の瞬間には、地面が大きくめくれ上がり、地響きを鳴らし、木々の根っこが露わになる。巨大な拠点であるはずの防衛基地もそれに耐えられず、爆風に巻き込まれ、まるで豆腐のように切り崩さされていく。



 この規模の破壊力は近年では見たことがない。それこそ、戦争黄金期でしか……



(まるで……全盛期の震巻……)



 数少ない敗戦の記憶。脳裏に確かに刻まれている全盛期の震巻。あいつの業火の破壊力に類似していた。



 いける。とは思っていた。



 と、感想を述べるのも、もう何度目になるだろう。


 伸太とは、別れ、会い、別れ、会い、別れを繰り返してきた。


(最初は大阪派閥での戦果を聞いた時じゃったかな……あの時も驚いてきた)


 閉じた流れてくるニュースでも、伸太の活躍は耳にしてきた。


(神奈川派閥を破壊させたというニュースを聞いた時は、本当に驚いたものじゃ……どうやったのかは聞いとらんが……)


 そのたびに強くなっていく伸太には、何度も驚かされたものだ。


 戦争前に行われた模擬戦とは言え、自分の知る中でトップクラスの兵士である震巻と引き分けるとは思わなかった。





 おそらくはワシの予想以上の実力を手にしているのだろうと……





「……はっ。もう笑う気も起きん」


 驚きを通り越すともはや笑いが出てくる。と言うのは通説だが、それすら通り越すともはや呆れてくる。その後に沸々と感情が湧き上がってくる。


 額に手を当てて俯き、思う。


(伸太は……あやつは、遂にここまで来たんじゃ……あの"器"に……偶然ではない。実力で! ぶん殴れるところまで来た!)


 気がつくと目が霞んでくる。目から汗がこぼれている。


 伸太の復讐はワシの目標とは無関係で、関係のないものだ。なのに、ここまで来たことに、結果にではなく、上り詰めてきたことにキテしまっていた。


 どれだけ汚れていようと、それはまごうことなき若者の成長。自分にはない進化の道。


「いかんな……歳をとると……」


『おーい。ハカセー!』


 ペストマスクを少しずらし、隙間から目を拭っていると、鉄球から通信が入る。


「……っと、どうした? 何かあったのか?」


『いや、第一防衛基地を壊滅させたのはいいんだけどよ? ここからどうすんのか聞いてなかったと思ってな』


「ああそうか、それなら一旦拠点に戻って――――」


 通信しながらも、ワシは確信めいた物を感じていた。






 伸太は今、黄金の時(全盛期)を迎えつつある。





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