四聖とは
四聖とは一体何なのか? わかりやすく簡単に言うと、戦争黄金期が過ぎ去った後、五大老等の有力な兵士たちが全盛期を過ぎ、最前線から退くのと入れ違いで注目を浴びるようになった4人の兵士たちのことだ。
その力はまさに一騎当千。戦争そのものが、冬の時代を迎えたのちに頭角を表したため、戦争の経験はないが、時代がもう少し前だったならば、どの派閥に属してもその顔の顔となったのは間違いない。
さらにそれだけではなく、メディア出演も活発で、東京派閥内では黒のクイーンに次ぐ人気を誇っている。
そのため、桃鈴才華というイレギュラーを除けば、近代において東京派閥の兵士になりたいと志願する学生たちのほとんどは、五大老時代の兵士に憧れるよりも、この世代。四聖に憧れて志願する者の方が多いのだ。
つまり、四聖こそが近代東京派閥の顔であり、力の証明なのである。
しかし、見方を少し変えてみれば、こう考えることもできる。
「お前を殺せば……俺の力は東京派閥に届いてるってことだ!」
――――
思わず口からこぼれてしまった俺の発言。テレビの前で何度も見てきた四聖。それが目の前にあり、この手にかけることができるかもしれないと思うと、うずきが止まらない。
(これは証明だ……今の俺が東京派閥に届くのか……それを確かめるための証明!)
「……なにやら…… 1人で……盛り上がっているようだが……悪の道に堕ちた者に、拙者は倒せぬ……」
悪の道? それがどうした。俺は力を手に入れた。俺の道は間違っちゃいない。あくまでこれはその証明であり、この男の発言に意味はない。
「倒せなくていいんだよ」
「……?」
「殺すつもりだからな!!」
俺は反射を使い一気に接近。落ち武者との距離をゼロに詰める。
「!! なんと……!?」
人によっては1歩前も見えないような暗闇の中、高速で近づく俺に気づくのは至難の業だ。近づけて当然。
「なんと。だぁ……? 俺の攻撃を防いでるくせによく言うぜ」
わざわざ敵に近づいて、ゼロ距離ではいこんにちは。で終わらせるわけがない。当然攻撃も混みで近づいたのだが、本能なのか、はたまた口ではああ言っておいて視認できていたのか、刀の鞘を180度回転させ、腰に帯刀したまま鞘で拳を受け止めていた。
「安心せよ……本音だ……」
「ああそう。光栄だな」
(こいつ……こんななりでなんつー力だ……鞘が全く動かねえ)
先ほどから拳に力を入れてはいるものの、鞘が動く気配はまるでない。チラリと柄を握る拳に目を移すと、小ぶりなもののがっしりとしている。スキルに頼らず、自己研鑽も積んでいるようだ。
(ご苦労なこって……が)
「無駄な努力だな!」
鞘に押し当てた拳を開き、むしろ鞘を強く掴む。
「む……!」
腰に帯刀したまま固定された鞘はもう動く事は無い。落ち武者の体を固定したようなもんだ。
さらに、反射を使った左足で強烈に地面を蹴り上げ、砂や石を落ち武者の目元にヒットさせる。
「いつの時代もこれって決まってんだよ!」
今までも散々使ってきた戦法だが、やはり強力そのものだ。そこに魂心の右ストレートを叩き込むため、少し体を引いて拳を握り締める。
「一発で……!」
決め切る。そんな思いで振り抜いた一振り。
「甘い……甘すぎて……ショートケーキ……!」
しかし、さすがは四聖。腰を落として重心をずらしてきた。その影響は鞘を持っていた俺の体にも及び、重心が勝手に下に行ったことで、拳の狙いがほんの少しズレる。そこを見逃さず、藁帽子を深く被り、口元以外を隠すことで、藁帽子を犠牲にして、確定ヒットのはずだった俺の拳を回避した。
「……今の侍は……洋も許容……! して、生まれし隙……!」
拳の回避により生まれた大きな隙。こちらが確実に当てれた状況だったのに、むしろこちらが当てられてしまう状況。
……が、俺の口角は、未だに笑みを崩さない。
それはなぜか? 決まっている。俺が見たからだ。
「ブラック!!」
背から這い出る忠犬が、落ち武者の胸を十字に切り裂くのを。