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「ぐっ!? お前はっ!?」


 足が地面を蹴る感覚。


「い……や……」


 手が肉を叩く感覚。


「もう……なんだよおおおおぉぉ!!」


 皮膚に伝わる血肉の温度。白い雪の中では良く映える赤。


「へっ……」


 やばい。ニヤケが止まらない。やはり俺の居場所は戦場だ。血と肉の中にこそ、俺の輝く場所がある。


「しっかし……ハカセも無茶言いやがるよなぁ。第一防衛基地を潰せ……なんてよ」


『それだけオヌシを信用していると言うことじゃ。評価しとるんじゃよ』


 ハカセと一緒に外に出てから、ハカセの口から色々と教えてもらった。第一から第四までの防衛ラインが新潟派閥と同じようにあると言う事、それぞれに防衛基地があると言う事。先の組み立てた作戦が失敗したと言う事。とりあえず、この戦争の大体の事は理解した。


 その上で、ハカセから下された任務は以下の通りだ。





"第一防衛ライン。並びに第一防衛基地を単独で破壊しろ"





 相手は日本一と言っていいほどの巨大派閥。それが建てた基地を単独で潰す。字面だけ見ると自殺行為そのものだが、絶望と同時に、うずくものが俺の中にあった。


(やってみてえ……って思っちまったんだよな)


 東京派閥の基地の単独殲滅。なんと甘美な響きだろうか。相手からしたら、正体不明、謎の存在に基地を潰される……男心をくすぐりやがる。


 さすがはハカセだ。長年の付き合いは伊達ではない。俺のツボを的確に突いてくる。


 そのため、今は戦力削りとして、周りのアリみたいに動く雑魚を片付けているところなのだ。


「どうだハカセ? だいぶ削ったと思うんだが」


『ちょっと待っとれ……オヌシの速度についていけん……っと、あらかた片付いたようじゃ。オヌシは予想ついておったが、まさかあの犬がここまでやるとはの……』


 ちなみにブラックは別行動で、ハカセの鉄球を付着させ、俺と同じく警備を片付けている。ブラックもだいぶ成長したし、ここらで別行動を取らせたかったので、ちょうどよかったのだ。


 その反面、俺なしでも大丈夫かと言う一抹の不安もあったのだが、ハカセの無線を聞く限り、無駄な心配だったらしい。


「なら突撃していいか? 目の前で焦らされてよだれダラダラなんだが」


『そうじゃな。この異変に気づかんほど、相手も馬鹿ではないじゃろ。とっとと突っ込むが吉じゃ。あの犬にも合流するよう伝えておこう。好きにやってこい』


「了解した!」


 ゴーサインが出た。後は潰すだけだ。









 ――――








「警備の音信不通が相次ぐ……何の騒ぎだと来てみれば……」


 そこに立つのは、和の剣士。いや、剣士というより侍に近い。


 ボロボロの藁で出来た帽子を深くかぶり、その隙間から覗く肌を見るに、肌のケアはさほどしていないらしい。


 さらに言うなら、身にまとう和服もボロボロ。刀も手入れされていない。剣士と言うよりは侍だと言ったが、訂正しよう。これは落ち武者だ。


「騒ぎどころか、驚きの静寂……」


 警備の巡回で、少しは騒がしいはずの夜。そこは不気味なほど何も聞こえず、夜空が光るのみ。


 一見、何もない夜だが、落ち武者の目には、人と獣の影がくっきりと見えていた。


「そこに振り散る…… 人と獣……」


 それらは夜空をバックに、豪快に着地した。


「雑魚じゃない……四聖の1人だな?」


「グルル……」


 黒い人からの問い。答えない理由は落ち武者にはなかった。


「いかにも……」


「そうか。やっぱりだ。そんじゃ……」


 体の重心を不自然なほど下に下げる。まるで野獣が獲物を狩る姿勢。臨戦体制を意味していた。



「死んでもらう」



 ここに黒ジャケット。田中伸太の戦争デビュー戦が、密かに、誰にも知られることなく始まった。

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