ついに動き出す黒い翼
今日のタイトルかっけぇ……
「……ハカセ帰ったぞ」
「ワン! ……ワウ?」
「おぉ、よう帰った……何かあったか?」
待機室に帰ると、そこには当然のようにハカセとブラックが居て、出迎えてくれたのだが、何かしらが顔や雰囲気に出ていたらしく、ハカセのモードがリラックスモードから一気に真面目モードに切り替わった。
「まぁ、いろいろとな……でだ。ハカセ」
外に出ることが確定したわけだが、当然ながら俺とブラックだけでは足りない。戦場に足を運ぶどころか、首の下までずっぷり嵌るわけなのだから、男1人と犬では足りない。
「外に出る。付き合って欲しい」
そこに、老人もいなければならない。
「クックク……クハハハハ! 外に出るか! そうかそうか!」
外に出る。という言葉の意味が、そのままの意味ではないと言うことをわかった上で、ハカセはゲラゲラと笑い声を上げる。
ペストマスク越しではあるが、唾でも飛んできそうなほどの爆笑だ。
「今までも笑わせてもらってきたが……戦争中に単独行動……それに誘うとは……ククク……」
「わかってる。ただ1人では「ワン!」――悪い。1人と1匹では無理だ。あんたがいる。ハカセが必要なんだ」
俺がそう言い切ると、ハカセはペストマスクの位置を調整し、最初から答えは決まっていたのではないかと勘違いするほど、簡単に答えた。
「よいぞ。地獄まで付き合ってやる」
――――
その日、さらに時間が経ち、深夜。第一防衛ラインの防衛基地周辺にて。
「ふあ〜あ……ねみぃ……」
「こら! あくびしない! みんな眠いんだから!」
東京派閥側の防衛基地では、最新部の最終防衛基地が襲撃されたのを受け、各防衛基地で通常の2倍以上の兵士が警備するという厳戒態勢が敷かれていた。
「でもよー。ここは第一防衛ラインだぜ? 最前線なんだから、見えなかったらいねえんじゃねーのか?」
男の兵士が言うように、最前線であるからこそ、敵の動きが1番よく見える。さらに言うなら襲撃された最終防衛基地との距離は1番離れている。警戒する必要がないとは言わないが、襲撃される可能性が1番低いのは明確だった。
「備えあれば憂いなしって言うじゃない。それに、周りの先輩たちがやってるんだからやらないと。私らが兵士になって、初めての大仕事なんだから! ほら! 張り切って!」
女の兵士が激励の言葉とともに、男の兵士の背中を叩くと、男の首から上がズルリとズリ落ちた。
「もー! そんなの落として……え?」
鈴キロの単位の重いものが落ちる鈍い音。首の上と落ちた頭から赤い液体が流れ、自然界では珍しい赤色が、女の視界に増えていく。
「え? え? あ……」
じんわりと、背筋から脳へ。現実を認識させていく。
目の前の幼なじみは、死んだのだと。
「う……う、う?」
覚悟は当然なかった。予感もなかった。ただ一瞬で終わった。男の体は倒れない。まるで自分が終わったのを気づいていないかのように。
「あ、あ、ほうこく、ほうこく、しないと……」
呂律が怪しい状態ではあるが、どうにか現実を認識することに成功したので、何とか兵士の役目を果たすため、ポケットの端末に手を伸ばし、手首が足の近くに落ちた。
「……んあ?」
司会がぐるりと一回転。逃げようと体に命令を送っても、視界が動くことなく、麻酔を打たれたような感覚に陥る。
異常事態に次ぐ異常事態。しかし、その中で最も不可解だったのは……
「……だぁれ?」
宙返りの視界に一瞬映った、黒いジャケットだった。