吐血 その2
お前が羨ましかった。その言葉は脈絡なく、唐突に放たれた。
「……はぁ?」
先ほどまでは、作戦についてと、一度失敗した位でうじうじするなと言った。
私としては、叱咤激励のつもりで言ったのだが、逆効果だったらしく、亮介が反発して言い争いになっていたのだが、あるタイミングで、亮介の何かが爆発したらしく、直前のセリフをぶったぎって放たれた言葉だった。
「いつもいつも周りから期待されて! それに答えられるお前が羨ましかった!! ずっと! ずっとだ!」
亮介の言葉に対する私の最初の反応は、正直言って混乱だった。
亮介と言えば、会議等で積極的に意見を出し、結果はどうであれ、行動できる人間だと私の中で思っていたからだ。その点では私も認めていた。そんな彼が、こんなに感情をあらわにして、羨ましかったと言うのが、あまりにも意外だったのだ。
「な、何を……あなただって……」
そして、困惑から出た言葉はこれくらい。これが精一杯だった。
「お前はいつもそうだ!! 人より凄いことをいつも思いついて!! 周りを信じさせる空気も作れてよぉ!! 気づいたらいつも中心にいやがる!! そんな中で、やっとチャンスが来たんだ!! 親父が選んでくれたんだよ!!」
亮介の目から涙が溢れでる。泣いているのではない。感情が高ぶりすぎて涙が出てきてしまっている。
目上の人間にも噛み付いて、オラついた姿勢を崩さない彼が……
「やっと中心になれたんだ!! それすらお前に奪われそうになって……俺は……おっ、お……俺は……」
両手を地面に付け、床に突っ伏して動かなくなる。ピクピクと体を振るわすだけ。次に聞こえるのは、嘔吐としゃっくり。鼻をすする音。
「……あ、う……」
何も出なかった。ただ立つことしかできなかった。
亮介を叩き起こすために来たのに、結果刺激してさらに落ち込ませてしまった。今考えると当然だ。亮介のトラウマのトリガーは私だったのだから。
「……よう」
そこに、彼が来た。
――――
「……! ズビッ……観てたのか?」
「……ああ」
聞こえたのは、本当に偶然だった。こいつの胸の内も聞いた。
「なんだよ……笑いに来たのか?」
「ああ……本当なら笑いたいところなんだけどな」
正直、この男は気に入らない。初対面からそこまで良い印象はなかったし、俺が戦争に出れなくなった原因もこいつだ。気に入るわけがない。
しかし、先程の話を聞いて印象が変わった。
(こいつは俺と同じだ。昔の俺と同じなんだ)
近くにある存在と比較されて、むずがゆい人生を送っていたのだろう。気持ちはわかる。そう感じ、その場に立ってしまうと、周りの声は当然のこと、近くにある輝かしい存在からの言葉ですら、それがたとえねぎらいの言葉でも、鋭いナイフのように背中に刺さってくる。
ただ、ひとつ、俺と違うことがある。
「……お前は逃げなかったんだな」
「……あ?」
俺は脱却しようとした結果、ある意味、脱法の方法で抜け出そうとした。でも、こいつはあくまで正攻法で抜け出そうとしている。これは大きな、大きな違いだ。
なら、俺が言える事は1つだけ。
「……ちょっと外に出てくる」
「ああ? んなもん勝手に――――」
「外に出ている間は何をやろうと俺の勝手だ」
「…………」
(……やっとわかってきたか)
「もしかしたら、都合の良いことが起こるかもな?」
後は、お前が勝手に決めろ。
「俺はやりたいことをやる」
俺は俺なりに抜け出すだけだ。