自分への疑い
そして現在……雪の霧が晴れた時に戻る。
「桃……鈴……様?」
雪の霧が晴れた時、そこには、俺が敬愛する桃鈴様がいた。
「もっ、申し訳ございません! 桃鈴様に刃を!!」
桃鈴様に刃を振るってしまった。俺の過ちを本人が未然に防いでくれたからよかったものの、もしそのシルクのような皮膚を切り裂いてしまっていたら、俺はショックのあまり気絶してしまっていたことだろう。
「処罰はいかようにも!!」
何度も言うが刃を振るってしまったことは事実。罰はいくらでも受ける覚悟で言った一言。
「……ま、別に良いよ。戦争中だし、そういうこともあるでしょ」
しかし、桃鈴様という存在は、俺の思っていた以上に崇高で、俺の過ちを許してくれる。
(……ただ、笑顔がない)
いつもの桃鈴様なら、笑って笑顔で許してくれるイメージがあるが、今の桃鈴様にはそれがない。別にイラついた表情でも、疲れたような表情でもない。ただ単に無表情というわけでもない。見たことのない表情。
(……無……? じゃ……ない……関心がない……まるで、俺が見えていないかのような……)
すごく馴染みのある目だ。自分にとってどうでもいいものを見るような……そんな……
(っ!? 待て! 桃鈴様にそんな顔をさせたのは俺だろ!!)
「それよりも、屋上に武くんを置いてきぼりにさせてるからさ。迎えに行ってくるね」
「……了解しました」
遠ざかっていく桃鈴様の影を見つめるのはやめないが、その姿が右から左に抜けてしまうほどに、思うところがあった。
桃鈴様にしてほしいと願うのは持ってのほか。俺の失態なのだから、俺自身に直すところを見つけるべきだ。
だが、それよりも……
「俺が……桃鈴様を敵だと思った?」
それが何よりも信じられず、宗太郎からの呼びかけにも、しばらく反応することができなかった。