襲撃 その4
「ひっ!」
夜空が無数の星に埋め尽くされた時、1番に目に入ったのは、女のような悲鳴をあげながら、僕の後ろに隠れる三山くんの顔だった。
「どうしたの? 対抗しないと死んじゃうよ?」
「お、俺のスキルは味方のバフなんだよ! こんなの耐えれねぇ!」
(なんだぁ、本人は強くないのか)
鼻を鳴らし、少し落胆の感情を胸に浮かばせる。元からさほどの期待はしていなかったが、この程度も受け流せないとは。私の知っている伸太ではないが、学校で戦った時の伸太のパワフルさとはえらい違いだ。
本人がこんなのなら、スキルも大したことないのだろう。そう考えつつ、腰の剣を抜き、光線を切り裂いた。
「……?」
光線を切り裂いた愛剣を持つ腕に感じた大きな違和感。それは瞬く間に体中に伝播し、脳内を万能感で包み込んだ。
(軽い……!?)
体はまるで羽毛のように軽く、筋肉がいつも以上に硬く、皮の内側にギチギチに詰まっている感覚がある。調子が良いで片付けることができない明らかな強化。
(これは……)
「ねぇ! バフしてるんだからもっと弾いてよ! 所々掠ってるんだけど!?」
三山武のスキル『超身体能力支援』によるものだと確信した。
スキル名 超身体能力支援
所有者 三山武
スキルランク hyper
スキル内容
半径500メートルの味方と認識するものに使用者の身体能力の5倍のバフがかかる。この能力は他の能力と重複し、使用者から離れても10分間の間だけこの支援は継続する。この支援は使用者にもかけることができる。
そうだ。三山武本人から聞いた数少ない個人情報の1つ。半径500メートル以内の味方に自分の5倍のバフをかける能力。
つまり、今漲るこの力は、三山くんの身体能力を5倍増しにした力。無数に降り注いでくる光線を弾きながら別のことを考えられるほど、余裕を持って対応することができている。
5倍増しとは言え、これはかなりの能力アップだ。つまり、これだけの身体能力を三山くんが持っていると言うことになる。
「…………」
「うお! あっぶねぇ!」
(これくらい何とかなる実力はあると思うんだけどなぁ)
アレだ。筋肉ゴリゴリのマッチョマンがビビリだったりするアレ。本人の気持ちと能力は比例しないのを体現した良い例だ。
「じゃ、そろそろ反撃に出ようか……三山くん。行ってくるね!」
「え?」
足からベコベコと筋肉が収縮し、凹む音がするのとほぼ同時に、足がバネのように伸び切り、防衛基地の屋上から飛び上がった。
(あ、ヤベ)
しかし、いつもの感覚でジャンプした僕は三山くんのスキルによるバフを一切頭に入れておらず、思った5倍の勢いで上昇。雲を突き抜け、その先にいる異物達に近づき……
「こう……かな? ……えい!」
目に見える限りの敵を縦に両断した。