襲撃 その3
「――……それでね。俺はそこで言ってやったわけよ」
「あはは……はぁ」
放心状態にあった2人を置いていき、寄り道もして少し時間が経った頃、僕は隣を歩いている三山くんの話を右から左に聞き流し、内心舌打ちをするほどイラだっていた。
(チッ……聞きたいのはそれじゃねーんだよ……)
三山くんの内容が聞きたいわけではない。むしろ聞きたくない。耳に毒だ。僕が聞きたいのは伸太という砂糖水なのだ。
話の流れで三山くんから自然にこぼれるのが理想の流れだったのだが、一切聞けずに目的地まで来てしまった。これでは三山くんとわざわざここまで来た意味がなく、無駄足に終わってしまう。
「その話もすごくいいんだけどさ……その、伸太のことについても聞きたいんだけど……」
このまま終わるよりはマシだと判断し、僕は相手の機嫌が悪くなること覚悟で、伸太のことについて質問した。
予想通り三山くんは少し無表情になった後、ため息を1つつき、残念そうな顔を見せて声を発した。
「はぁ……そっち目当てね。なるほど……」
「あ、ごめんね。気を悪くさせちゃったみたいで……」
それに対し、申し訳なさそうな表情で対応する。もちろん嘘だ。申し訳なさなんてあるわけがない。逆にそっちが感謝してほしい気分だ。伸太のクラスメイトってだけで、僕がここまで時間を使ってあげたのだから。
「まぁいいよ。面識がほとんどない才華ちゃんに誘われた時点で何か変な感じしたしね。で、伸太のことね……」
ようやっと聞ける。私は片耳を手で塞ぎ、右から左へ流れないようにしつつ、頭を彼へ傾けた。
「俺とあいつは仲良かったよ。課外授業でも幾度と無くペアになってきたし、まさに親友と言っていいような……いや、親友は違うか……とにかく、仲が良かったよ」
「たとえば?」
「例えば? そうだなぁ……才華ちゃんも知ってると思うけど、あいつって結構ビビリだから、周りに結構いじられるのよ。その時に庇ってやったりとか……まったく、なのに、行方不明になりやがるなんて、つまらな……いや、馬鹿なことしやがって……」
親友という言葉が出てきたのは誠に遺憾だが、伸太がビビりな性格というのは事実だ。三山くんの言っていることは事実と見ていいだろう。
それにしても、既に私が知っている彼の情報だ。もっと私が知り得ないような、興味深い情報は無いものか。
「じゃあさ、伸太が行方知れずになる前の……何か変なことしてたなとか、そういうのはなかった?」
「うーん? 別になかったよ? あ、でも……」
「でも?」
「俺は知らないんだけどね……あいつがいなくなる前日、クラスで何かトラブルがあったみたいだよ?」
「トラブルっていうのは?」
そうそう。そういうのが聞きたかったんだと言わんばかりに、僕はグイッと顔を回し、内容の深掘りを促す。
「それは俺も知らないよ。俺は友達と一緒に先に帰っちゃったから……もしそれが原因だったとしたら、悲しいね……」
「…………」
三山くんは少し顔を上に上げ、夜空バックに黄昏れた表情を浮かべる。その風景は顔の良さもあって非常に様になっているが、僕の胸には響かない。
そんなことよりも先程の話だ。クラスメイトと伸太の間で、何かしらのトラブルがあったという話。
(そのトラブルが本当にあったかどうかは、他のクラスメイトに聞けばすぐにばれることだから、おそらく本当で間違いないでしょ……)
間違いなくトラブルは起きた。それが伸太の引き金を引いたトリガーになったのは間違いない。しかし、どうしても引っかかることがある。
(……クラスの中心人物の三山くんが、トラブルを知らなかった? 先に帰っていた?)
雄馬くんの話では、三山くんはクラスの中心人物で、伸太ともある程度交友関係のある人物だと言う話だった。なのに、クラスでのトラブルを目撃せずにそのまま帰っていったというのは、いささか考えがたい出来事だった。
「ってかさ、そろそろいいでしょ!?」
「え?」
「こんなところに呼んだ理由だよ! 雪が降ってる夜に屋上に呼び出すなんて……何かあるんじゃないの〜?」
三山くんは夜空を指差し、こちらに期待する目線を抜けてくる。
三山くんが言って欲しいことの大まかな予想はつく。が、残念ながらそのご期待には添えることができない。今考えてみると、確かに思わせぶりだ。心の中で少し罪悪感を覚えつつ、回り込んで彼の前に立つ。
「そうだね……じゃあ、始めよっか?」
「……ん? 始める?」
僕の言葉に違和感を感じる三山くんを無視し、彼と同じように夜空を指差して一言。
「あなたの力を見せて?」
流星が、指差した夜空から降り注いだ。