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襲撃 その2

 光の線が防衛基地に降り注ぐ少し前……


「……」


 僕、桃鈴才華は食堂に設置された給水器の前に立ち、ボタンを押して、紙コップに水を注いでいた。


(今のところ……伸太の影は見えない……か)


 精神力放出のスキルで、あたりの精神力を探ってはいるが、東京派閥の兵士のものばかりで、異物感のあるものはほぼ見つからない。


(伸太のなら一目見てわかるもん……"ゴミ虫"が入ってるから)


 病室で見たあの顔を思い浮かべてしまい、自分で自分に舌打ちする。水の入った紙コップも少しひしゃげてしまった。


「どうしましたか?」


「ああ、大丈夫だよ」


「そうですか。ですが遠慮しないでくださいね。私たち騎士団は桃鈴様の手足。桃鈴様が発言なさるだけで、私たちは――――」


 隣にいた友隣ちゃんが問い掛けてくるが、僕は意に返さず、食堂の壁にある写真に一通り目を通し、夕飯は何にしようか考え込む。


(がっつりしたものばかりだなぁ……あんまりお腹空いてないし、今は食べずにいよっかな)


 真夜中にお腹が空いても、食堂は24時間営業だからちゃちゃっと食べに行ける。今無理にお腹にものを入れる必要は無いだろう。


「桃鈴様! 自分、騎道優斗トイレから帰還しました!」


「……っ」


 途端に少しの間トイレに行っていた騎道優斗が帰ってくるが、僕の意識はそんなことに当然向かず、精神の歪み、空からの大量の精神力の出現に目を見開いていた。


「……桃鈴様?」


「…………いる」


「……?」


 しかし、これは僕の目当ての精神力ではない。数が多すぎるし、何より耳に覚えがないメンタル。こちらを必ず殺すと、差し違えてでも殺るという覚悟が感じられる。


「桃鈴様? そんなに寂しかったんですか? 大丈夫です。今、俺が――――」


 周りにいる2人はこの異変に気がついていない。戦闘能力の大部分を魔剣に割いているとは言え、僕のこの反応に、敵が近づいているのではないかとの予測も立てないとは。


(使えないなぁ……)


「チッ……」


「あの……桃鈴様?」


 おっと、思わず舌打ちが出てしまった。ここで2人の信用をなくしては、道具として利用できなくなるかもしれない。ただでさえ雄馬くんと宗太郎くんには疑惑の精神が生まれてきているのに、この2人にまでそう思われてしまうとまずい。


「ごめんごめん。なんでもないよ……それより、外に少し出てくるね。空気を少し吸いたいんだっ」


「それなら私も……」


 ……ウザ。


「……あのさ、僕がわざわざ2人に伝えたのはなんでだと思う?」


「え? それは……」


「1人で行きたいからなんだよ。僕になって1人になりたい時はあるの。少し前まで病室にいたんだよ? それがいきなり戦場なんだよ」


「あ、あの……」


「ちょ……どうしたんすか? 何か不満があるのなら俺に……「それが嫌って言ってんの。わからない?」……失礼しました」


「2人とも、僕のそばにいてくれるのは嬉しいんだけどさ……ちょっとは考えてくれないかな」


 ダムが決壊したように、自分でも驚くほど口から出てくる不満の数々。それに突き刺され、何も言えなくなった優斗くんと友隣ちゃん。僕たちの3人に気まずい雰囲気が流れる。


「あれ? どうしたんすかお三方」


 しかし、そんな重苦しい雰囲気なんぞ知らん。とばかりに陽気な声が耳に入ってくきた。


「お前は……三山か。なんだこんな時に」


 優斗くんの言う通り、声の主の名は三山武。ハイパーランクスキルの持ち主であり、社交性も高い陽キャと言える人物。


(そして……伸太の()()()()()()()


「遠くから皆さんが見えたんですよ。ただならぬ雰囲気だったもんで……で、どうしたんすか? 自分には顔色が良くないように見えますが」


「……あなたには関係のないことよ。消えなさい」


「相変わらず言うことが厳しいなぁ。友隣ちゃんは……」


「あなたに友隣ちゃんと言われる筋合いは無い」


 そのまま私を抜いた3人で、口論とも言えないような口論が始まる。優斗・友隣コンビが攻めて、三山くんがのらりくらりと論点をずらす形。くだらない風景だと思いつつ、私は空にいる異物共に目を向ける。


 くだらないことをしている3人ではあるが、その中の1人、三山くんには興味がある。あの伸太のクラスメイト。道中は色々と立て込んで聞けなかった。ぜひとも聞いてみたい。


(……今すぐには来なさそう)


 まだ空中に漂っているだけなのを確認すると、僕は三山くんをじっと見つめて声をかけた。


「三山くん。良かったら一緒に行かない?」


「……え?」


「は……?」


 優斗くんと友隣ちゃんは信じられないといった表情浮かべるが、それとは対照的に指名された三山くんは口角をニヤつかせ初め、嬉々として返答した。


「もちろん! 行きましょ行きましょ!」


 いまだに放心状態の2人を尻目に、僕と三山くんは外に向かって歩き出した。


 


 

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― 新着の感想 ―
幼馴染もしかして主人公がいじめを受けていた事を知らなかった?、もしそうだったら三山は幼馴染に殺られてしまうかもしれないですね。ただ主人公と決別する事になったのは励まそうと思って言った自分の何気ない一言…
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