深まる疑念と無数の光
戦場となる場所にたどり着いた俺が抱いた第一印象は、「まるで戦争のために準備された場所」だった。
ちょうど良く平坦な大地がありながら、山岳地帯、森林も用意されている。雪のせいで裸眼ではよく見えないが、モニターで見せてもらった景色には、そういったものが用意されたかのように広がっていた。
(……これも異能大臣の策略なのか?)
病室での一件から、異能大臣と桃鈴様との距離感が近づいているのを感じる。恋愛関係のようにと言うわけではなく、なんというか、利害関係というか、そんな感じだ。
そんな関係を見てきたせいで、戦場を選ぶのは普通の戦略のはずなのに、これすらも何か黒い陰謀がうごめいているのではないかと勘繰ってしまう。
「どうした? ……顔色悪いぞ」
「ああ……悪い」
宗太郎から水の入ったペットボトルを受け取り、少し口に含む。
「……勘ぐるのも疲れるもんだな」
「同感。始まってもないのに一仕事終えた気分だ」
俺と話を共有しているのは宗太郎のみだ。よって他のどの人にも打ち明けることはできない。そんな俺にとって宗太郎との一対一の対談は、桃鈴様の華のような声を聞くよりも癒しになってきていた。
桃鈴様の格が落ちたわけではない。桃鈴様の声がきらびやかな華としたら、宗太郎との話は味噌汁。実家の味と言うやつだ。
「それで、今日はどうだった?」
「いつも通りだ。異能大臣は少し追うと消えてなくなる。まるで神隠しになったみたいに」
俺たちの役割は主に俺が異能大臣の監視、宗太郎は桃鈴様の監視となっている。しかし、異能大臣はある程度本部の奥まで行くと、何も前触れもなく消えてなくなる。廊下を曲がるといつの間にかいないとかではない。本当にふと、急に消えてなくなるのだ。
その事は既に宗太郎に話しており、何かのスキルが作用していると結論付けた。
しかし、原因が明瞭な分、そこまで問題視はしていない。問題なのは桃鈴様の方だ。
「桃鈴様は?」
「何もない……起きて、挨拶周りして、友隣か優斗を連れ回して、適当に歩いてそれで終わりだ」
摩訶不思議な現象など一切ない。ただ見回りをして、上司の言うことを聞いて、それで終わりだ。そんな日々がここに着いてから延々と続いている。
「……なぁ、やっぱり何も企んでないんじゃないか? 俺らが深読みしすぎただけで……」
あまりの潔白さに宗太郎が疑問の言葉を投げてくる。俺とは違い、いつも通りの桃鈴様の行動を見て、疑惑の目で見ている。自分に罪悪感が湧くのもわかる。ただやはり、あの2人には何かがある。その確信が俺にはあるのだ。
「……いや、まだだ。少なくとも本格的に戦争が始まるまでは続けたい」
宗太郎の疑念を晴らしつつ、2人の怪しさを決定付けさせるもの。今まで目を逸していたもの。
桃鈴様がおかしくなり始めた要因。
(使いたくはないが……あ?)
ほのかに、ほんの少しだが気配を感じる。宗太郎も感じたようて、ほのかに眉毛にしわを寄せていた。
知っている気配ではないし、指先がかなり疼く。感じたことのない気持ち悪い気配。
まるで"この世に存在しない生き物"のような……
「っ!?」
その時、俺たちが上空から感じたのは。
純情で猛烈な……まっすぐ過ぎる敵意。
周りの人たちは気づいていない。気づいているのは俺と宗太郎だけ。そして、空には無数の光が輝く。
今の俺には、叫ぶことしかできなかった。
「逃げろおおおおぉぉォォーーーーッ!!!!」
俺の言葉がトリガーを弾いたのか、瞬きした瞬間、空から無数のレーザーが降り注いだ。