一手
「龍兵隊。上空からの探索を怠るな」
「前線はどうなっている……そうか。なら問題ない。前線維持を続けろ」
新潟派閥側にある最終防衛ラインの拠点内司令室には、とても急造とは思えないほどの設備が整っていた。
コンピュータが立ち並び、モニターの前で何人もの人が複数のラインに指示を飛ばす。映画でよく見る司令室を想い描いてくれればいい。
『伝令! 龍兵隊が敵軍基地を発見しました!』
瞬間、ざわざわとせわしなく動いていた人々の意思が1つとなり、「「おお!!!!」」と示し合わせてもいないのに、1つとなって声を出す。
それもそのはず、新潟派閥にとって、東京派閥の本拠点をいち早く見つけるのは、今回の戦争のために組み立てた作戦において第一歩であると同時に、ミスが出てしまえば全てがお釈迦になる"絶対条件"であったのだ。
よって、言い方は悪いが、これから先のミスはある程度許容できる。今回のここのタイミングだけはミスが許されなかった。
それが成功したのだ。安堵や達成感もひとしおだろう。
中でも、この人物は。
「よくやった……だが、帰り道も警戒を怠るんじゃねーぞ。見つかったら全部終わりだ。残ってる奴らにも伝えておけ。360度、警戒を怠るなとな」
龍ヶ崎亮介。此度の戦争における作戦のほとんどを立案し、同時に総指揮官でもある人物だ。
なので、今回の報告。1番喜ぶべきなのは彼のはずなのだが、当の本人はむすっとした表情で、表情は喜びがない。
(この程度で喜んではいられねぇ……俺は新潟の未来を背負ってんだ……! 足踏みしてたまるか……!)
「すぐにこのことを他の家族たちに伝達し、会議室に集めろ! 潜伏している龍兵隊にはケアを怠るなよ!」
「「了解!!」」
最後に指示を飛ばし、亮介は司令室を後にし、会議室への廊下を早歩きで歩んでいく。
拳を強く握り、一手目の動きに確かな手応えを感じながら。
――――
同時刻、東京派閥側、最終防衛ラインにある本拠点では、相手に本拠点がバレたことなどつゆ知らず、異能大臣がだった1人で爪のケアをしていた。
「ん〜……こんなものですか……」
「失礼します!!」
異能大臣1人の静寂な雰囲気をぶち壊すがごとく、ドアから1人の男が入って来た。
「……どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもないですよ! もうここは戦場です! いい加減……」
「作戦を教えて下さい!」
なんと、東京派閥には作戦などなかったのだ。




