ハカセの目的
「生涯においての目標?」
生涯においての目標といざ言われると、少し悩んでしまう。俺の生涯の目標は当然復讐だが、いざ思い返してみれば、ハカセの目的は全くわかっていなかった。
東京派閥で初めて出会った時も、神奈川派閥で一緒に暴れた時も、ハカセは協力してくれるだけだった。
(よく考えてみると、かなり気になってくるな……)
袖女と一緒に新潟派閥へ行ったのと一緒だ。いざ気になってくると、どんどん膨らんでもう止まらなくなってくる。
「知りたい。んでなんなん?」
「なんで急に口調が変わった……? まぁ良いわ。単刀直入に言うと、ワシには東京派閥に忘れ物をしに行っておるんだ」
「ほう?」
(忘れ物……?)
「それを取り戻したい。それがワシの……生涯の目的じゃ」
忘れ物と言う単語だけを聞くと、そこまで大したものには聞こえないが、俺が知らないことをいくつも知っているハカセのことだ。その忘れ物と言うのも、とんでもなく重要なものなのだろう。
(そうか……だからいつも、東京派閥関連の情報を調べていたのか……)
別の体に憑依した時も東京派閥に居たし、今回も東京派閥の情報を調べていたらしい。目的を知った後だと、東京派閥に対しての執着心にも納得がいく。
「じゃあ、良かったなハカセ。あんたは幸運だぜ」
「……? 何が……」
ペストマスクで表情は見えないが、きょとんとした顔をしているのが雰囲気でわかる。
(当たり前だろ……)
「知ってんだろ。俺も東京に恨みがあるんだ……俺が叶えてやるよ。その願い」
ハカセには目標を叶えても返し切れない位の借りがある。俺の復讐のついでに、忘れ物なんていくらでも取りに行ってやる。
「……ブッ、ブハハ!! こんな老人を口説いてどうすんじゃ! クハハハハハハ!!」
ハカセはひたすらに笑い続ける。笑って、笑って、笑い続けて……ついにそれは止まった。
「ククク……まぁ、ありがたく受け取っておくわ」
「おう。ありがたく受け取っておけ」
ハカセの雰囲気が柔らかいものに変わる。やっぱりハカセと最後に話せて良かった。
袖女のまじないに、ハカセとの最後の談笑。戦争の前に、これ以上無いほどの時間を貰った。
最悪の未来なんて想像できない。その間逆だ。最高の未来しか思い描けない。
(……ん? 負けフラグか? これ)
……まぁ、問題ないだろう!
――――
……ああ、楽しい。
戦争の前だと言うのに、ワシは楽しさと言う感情を抱いてしまっている。
成金野郎のボディーガードにひぃひぃ言っていたフツメンが嘘のように。
(息子がいれば……こんな感じじゃったんじゃろうか……)
今は、こんなにも頼もしい。