行ってらっしゃい
時間の流れとは残酷なもので、楽しかった時間は一気に過ぎ去り、戦争の時間がやってきた。
ここから、彼とブラックとは一旦離れ離れとなり、私は彼らの帰りを待ち続けることになる。
(……不甲斐ない)
ここに来た時から、何ならもっと前から覚悟は決めていたはずなのに、いざその時が来ると、こんなにも耐えられないものなのか。
私がもっと強ければ、神奈川派閥の時に何かいい案があればと、ありえない可能性の話が私の中を反復する。私はこんなに重い女だったのか。
「どした?」
彼は今日のおかしい私に気づいてくれて、心配して声をかけてくれた。自分の方がよっぽど安心させて欲しいはずなのに。
嬉しい。うれしい。ふわふわとした感情が脳に響き、胸がきゅうきゅうと締め付けられる。
「……いえ、少し……しばらく会えなくなると思うと……」
優しさに甘えて、自分の不安を打ち開けてしまう。違う。逆なんだ。私が彼を勇気づけるはずだったのに。
私にゆったり近づいて、抱きしめてくれる。
「……あ」
「大丈夫だ。俺が負けると思うのか?」
なんでだ。私はこんなにもダメダメなのに。なんで、なんで。
「……いえ」
「なら、ここにいろ。足を引っ張るな。横にいるだけでとは言わん」
……なんでなんて、言っていられない。
「俺の居場所になってくれ」
次は私の番。今の今まで、ずっと私に意味をくれた彼に、今度はこれから先は私が返す番。
『相談だなァ!!!! 袖女ァ!!!!』
あの時から全てが始まった。
『俺ん家に住んでくれよ』
『膝をつかないって……約束したから……!!』
『すぐに迎えに行くから』
『よくやった』
私の全部じゃ足らない。もっともっと、肉体は当たり前。感情も初めても、いくらあげても返し足りない。
(ああ……そっか……この気持ち……やっぱり……)
大阪派閥でも、おまじないはかけてあげた。けど、あの時のは多分もう期限が切れている。新しくかけ直してあげる必要がある。
「……待って!」
私は彼の顔に近づいて……
……静寂。
「……ぷはっ……えへ……」
今の私は、どんな顔をしているのだろう。だらしない顔をしてしまっているのだろうか。……でも大丈夫。どんな顔だっていい。
それは絶対、あなたにしか見せない顔だから。
「……行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
元気な姿で帰ってきてね。




