両者とも
対して、東京派閥の準備も円滑に進んでいた。
確かに新潟派閥と比べて、準備期間の短さや神奈川派閥に協力を得られないと言うデメリットはあるが、派閥の規模と異能大臣による指揮の力により、信じられないピッチで国内の有力な兵士を集め、あの手この手を使い、戦争ができるギリギリのラインまで東京派閥をまとめることができた。
……本当にギリギリ。まるで計算されたかのように。
さて、少し話は変わるが、ギリギリ間に合わせるためのあらゆる手段。その中には、"若くとも実力があれば起用する"というものもあった。それにより、桃鈴才華に護衛騎士団の4人、三山武を筆頭に、そこまで多いわけではないが、年齢の若い兵士たちが駆り出された。
親の確認を取る必要があるため、当初は1人たりとも参加するわけがないと思われていた手段だが、なぜか、本当になぜか、派閥内の有力な兵士に限り、面白いほど簡単に確認を取ることができた。これも異能大臣のカリスマあってこそのものなのだろうか。
後はもう前に会議で決まった通り、五大老と四聖を主戦力として、東京派閥だけで神奈川派閥を粉砕する。
「結局、神奈川派閥には協力を得られませんでしたが……予想できたことです。問題ありません」
「そう……それでなんですけどぉ……なんで僕を呼んだの……ですか?」
「ふふ……無理に敬語を使う必要はありませんよ」
「そう……ですか……ならそうする!」
東京派閥にある支部の中でも、1番端側に位置している支部の最上階で、異能大臣と桃鈴才華は2人きりになっていた。
「ふふ……さて本題……と、行きたいところですが……その理由の前に……見てくださいよ。この景色」
異能大臣が手を広げた先。暖房が効いた部屋の外には、降りしきる雪で少し見えづらいものの、1000を超える兵士たちが、寸分の狂いなく均等に配置されていた。
「……これが?」
「壮観だと思いませんか? 大臣になってから、こういった景色を見るたびに思います……私はこのために大臣になっのだと」
「あー……えーっと……」
「大丈夫ですよ。趣味が悪いのは自覚しています」
異能大臣は広げた手を一旦畳むと、部屋の中心にあるソファに座り込むと、異能大臣と桃鈴才華の間にある机にとある物を置いた。
「……これって」
「小型の発信機です。これで私の声が聞ける」
「他の人には?」
「あなただけです。あなたにだけ、これをつけていただきたい」
才華にはわからない。自分にだけなぜ特別扱いするのか、単純に自分が1番使えると思われているのか。それとも――と、様々な考えがよぎる中で、異能大臣は考えの答えを出すかのように、言葉に出してもいないのに、才華が求める答えを出した。
「私なら、黒ジャケットの居場所を探し出せる」
「!!」
才華の表情は変わらない。だが、目の色は確実に動揺を示していた。
「……黒ジャケットの場所がわかったところで「今更すっとぼけなくていい。あなたの思惑はわかっているのですよ」……」
「あなたが電話をかける前から、ずっと……ね。ですから受け取って欲しい。でないと……あなたが猫をかぶって積み上げてきたものが、一瞬で溶けてなくなってしまいますよ?」
才華は確信した。
(読まれていた……! 何もかも……!)
ここまで来ると、これを受け取らない選択をした場合、戦争からいきなり外されるというのもあり得る。従わざるを得ない状況にさせられた。
だが、それと同時に才華はこうも思った。
(上等だよ……! 利用されてやる。こっちも、だけどね……!)
そして、桃鈴才華は発信機を手に取った。