望まぬ状態
「……おじいさま。私、やっぱり納得できません」
黒ジャケットの居場所へ訪問した後、当然のように無言で帰り道を歩いているのに耐えられず、私は脈絡なく、おじいさまに声を投げた。
「そういう話は帰った後にせい。周りに聞かれる」
おじいさまは私が投げた言葉に驚くことも無視することもなく、冷静に足を止め、威厳を感じられる表情で返答した。
しかし私は我慢できない。今回の彼の対応はあまりに不平等で失礼だ。それに、こんな前日に、周りもせわしなく動き、大変な中で駄々をこねた亮介の言うことなど、気にする必要は無いと感じたから。
「元から準備をしていた彼を下げて、直前にゴネた亮介の話を通すのはあまりに不平等です」
「じゃから、黒ジャケット抜きでどうにかできなかったら、すぐにでも前線に出すと言っておろう。それが折衷案じゃ」
そう。おじいさまが出した折衷案。それが、"最初は亮介の意見を採用して、それでどうにかできなかった場合、黒ジャケットを出す"と言ったものであった。
「ですが……!」
「この作戦の総指揮を取っているのは亮介じゃ。ある程度顔を立ててやらねば、周りもおかしくなろう……それが社会じゃ。それでもと言うのなら、次からロカが総指揮をとるんじゃな……」
「……はい」
了承の返事をしながらも、歯ぎしりが止まらないのを自身で感じ、あなたが急に勝手に亮介を総指揮に決めたんだろうと心の中で批判する。
(おじいさま……あなたは私より強いし正しい。でも、今回ばかりは自信を持って言える……)
あなたは間違っている。と。
――――
同時刻。場所は龍屋敷。
「んっ、んー……とにかく、脅威は四聖に最年少でマスターになったとか言う化け物。来るかどうかはわからないが、神奈川のチェス隊に……桃鈴才華か……」
俺、龍ヶ崎亮介は、今回の戦争に使う作戦を1から見直しつつ、体を大きく伸ばしてリラックスしていた。
昨日までは、作戦を立てる時すら体が硬く、ときには憂鬱になってしまうほど思い詰めていたが、なぜ今日はリラックスしながらできるのか。それには、昨夜の会議が理由にあった。
(はたから見ても、俺の意見はかなり無理矢理だった……当然周りは否定した……けど、親父は違う! 折衷案ではあるが、俺の意見を通してくれた! 親父は俺に期待してくれている!)
会議であんなことを言った理由は、正直言って俺自身にもわからない。ただ単純に、黒ジャケット。彼の姿を見ていると、心の底がイガイガする。気分を害するのだ。
そんな気持ちから出た一言だった。ただ一度言ってしまったらもう止まらなかったのだ。次から次へと出てくる否定の言葉の数々。自分で言うのもなんだが、自分自身でも俺の言っていることはさすがに無理があるとわかっていた。
ただ、もう止まれなかった。
しかし、そんな止められなくなった俺を、親父は周りのように真正面から否定するのではなく、折衷案という形でまとめてくれた。俺の意見を取り入れた上で、だ。
この上なく嬉しかった。偉大すぎて届くことのないと思っていた目標が、初めて自分と同じラインで物事を見てくれた気がしたのだ。
(間違いない……親父は、俺に! 他のどの息子でもないこの龍ヶ崎亮介に期待してくれている!)
ならもう止まれない。足踏みしてはいられない。さすがに作戦の大部分は変えられないが、俺の立ち回りや主力の投入タイミング次第で、戦況はいくらでも変えられる。
「新潟を勝たせるのは俺だ……!!」
黒ジャケットなんかではない。