すんごい
脱衣所で当然のように全裸になり、風呂の中に入る。
風呂はユニットバスとかいうこの世すべての悪を内包したものなどでは断じてなく、しっかりとした浴槽付きの風呂。大阪のと比較しても、かなり大きいと言える位の風呂だ。
「ふう……」
肺の中の空気を外に抜き、体を全体的に弛緩させる。そこからまず、シャワーで全身を濡らし、湯の熱さに慣らしてから洗うのが俺流だ。
俺にとって数少ない自分を癒す時間だが、目の前に広がる風呂場の中で、一部分だけ直視できない部分があった。
「……先、洗ってあげます」
当然、袖女のいる部分である。
「ほら、座って」
「…………」
「目をそらさないでください」
「無理」
なんとこの女、バスタオル等の体隠しを一切行っていない。正真正銘の生まれたままの姿を晒している。
まじで無理だ。無理。直視できない。
昔から思っていたが、袖女は背が低いだけで、スタイルだけならグラビアアイドルぐらいはある。古臭い言葉で言うなら、ボンキュッボンと言うやつだ。それが一糸纏わぬ姿でそこにある。男として耐えられる自信がない。
てかそもそも、袖女の裸でここまで緊張すると思わなかった。無感情で直視できる自信があったのに、そんな自信は粉々に砕け散ってしまったらしい。
しかし、ずっとあからさまに目をそらしているとまた袖女にいじられるのが目に見えている。それはそれで嫌だ。チラリと袖女の方に目をやる。
「ほら、ここ」
バスチェアを叩くその姿は、湯気で隠れて大事なところが見えず、ギリギリ目視できる……わけもなく、チラリズムもクソもない姿を惜しげもなく晒している。
対して、こちらはタオルで股を隠したスタンダードな状態。これだけで風呂場に対する覚悟で負けてしまっている。
(な、なんたる屈辱……)
袖女に覚悟で負けるなどあってはならない。こちらも覚悟を持って挑むべきだ。
謎の勇気を身にまとい、バスチェアに滑ってこけてしまいそうな勢いで座り込む。そして、そしてついに両目で袖女を直視した。
「……あ、どう?」
(どっぎやゃゃゃぁぁぁぁ!!!!)
その時見た光景を、エベレストかと思うほどの双丘を、俺は男として、いや人間として、忘れることは無いだろう。
――――
田中伸太が初めてのおっぱ……双丘を見て大絶叫をぶちかましている中、その持ち主である当の袖女もとい、浅間ひよりはと言うと……
(どっひやゃゃゃゃゃゃゃゃあああぁぁぁ!!!!)
同じく、絶叫していた。
(お、男の人の……裸がっあばばばば……)
伸太が女の裸を見たのが初めてなのと同じく、ひよりも男の体が見るのは初めてだった。
しかも、その体は今や有名になりすぎて、ファンコミュニティまでできてしまっている黒ジャケットの肉体。男の体を知らない純情な女には、あまりにも刺激が強すぎる。
(それに……見られっ……見られて……るぅ……)
それに加え、男には薄い自分の体が見られていると言う感覚。それがひよりの羞恥心と興奮度をさらに高めていた。
(うぅ〜……覚悟を決めたのに……)
家に帰ってからの怒涛の攻めには、優しさを捨てた覚悟ともう少しで彼が行ってしまうという焦りが起因していた。
(でも、攻めなきゃ……!)
「頭から行きますよ〜」
あくまでいつも通り。あくまで私は気にしてませんよ感を出しながら、シャンプーに手をかけた。