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まさか……あるのか?

 デート終わり。なんてことない帰り道を歩き終え、いつもと違う重みを腕に感じながら、俺たちは家にたどり着いた。


「ただいま」


「はい。お帰りなさい「ワン!!」あ、ブラック。ただいま」


 俺の隣で帰ってきたのに、袖女が出迎えの言葉を発する。もう何ヶ月も続けてきたので、体が覚えて反応してしまっているのだろう。


 そこだけ聞くといつもと同じに聞こえるが、帰ってきた場所は、いつもの大阪の家ではなく、新潟に設置された専用の寮だ。もう何日か過ごしてきたが、まだまだ慣れない。




 毎日を過ごす女と一緒に、いつもと違う家へ入っている。




「…………」


(なんか……ムズムズするな)


 脳から背筋へと、背徳的な感情が体に伝わっていく。数ヶ月前ならありえなかった感情だ。


「ご飯は要りますか?」


「いらん。どんだけ食べたと思ってるんだ……まぁ、一応夜食だけ後で用意しといてくれ。ブラックの分もな」


 もう少しこの背徳感に浸りたかったところだが、そういうわけにもいかない。ハカセがくれたヒントである戦場の解析がようやっと終わったのだ。それをブラックにも共有し、事前に戦略を練っておかねば。


「ブラック。ちゃんと留守番できてたか?」


「ワーウー」


 すると、ブラックはすぐに袖女から離れ、俺の手に頭を擦りつける。


「むっ……」


 それを見て袖女が悔しそうな顔を向ける。大阪でもあったなこんなこと。


「まだまだだな。コツはもうちょっとガシガシ撫でてやることだぞ」


 上から目線でアドバイスを投げてやるが、袖女は口をとんがらせたままで、あの時とは違う感じを出してきた。


「そっちじゃないんですけど……まぁいいです。お風呂入れときますから、好きにしといてください」


「お前はどうすんの?」


「あなたの隣にいます」


 超即答ときたか。


「……あ、そう」


(もうツッこむ気も起きん……)









 ――――









 袖女に真隣りで見守られつつ、ブラックと一緒に情報共有と戦略について話していると、時刻はすぐに深夜となり、時間が溶けるのを実感している今日この頃。ソファで凝り固まった体を伸びでほぐし、さて風呂だと向かおうとした時だった。


「……おい。風呂だぞ」


「? はい。だから一緒に行きましょ」


(……マジか)


 こめかみを押さえ込み、煩悩を何とか振り解く。


 神奈川から大阪に帰ってきてから、吹っ切れたのか、やけに積極的になってきているなと思っていたが、まさかここまでになっているとは思わなかった。


「あー……いいのか? マジで役得なんだが」


 俺としてはマジで構わないのだが、あまりにも都合が良すぎて勘ぐってしまう。


「役得……ああ、裸ですか」


「言うな」


「ん〜? 恥ずかしがってるんですか?」


「当たり前だ。俺にも恥じらいはある」


「女の部屋に窓から入ってきたあなたが言いますか?」


「あれは緊急だったんだよ……」


「ふーん……じゃあ見たくないんですか?」


 そう言われると言い淀んでしまう。俺だって男児なのだ。女の体に興味がないわけがない。


「……見てみたさは……まぁ、ある……が……」


「じゃあいいじゃないですか。どうせ今日中にもう一回、飽きるほどじっくり見ることになりますよ」


「いや、そういう問題じゃ……あ? もう一回?」


 もう一回。その言葉の持つ意味に違和感を覚えるも、袖女は「やべっ」と言葉を漏らし、頬を赤く染めて……





「しーっ……です」





 俺は今日、男になるのかもしれない。

 

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