突然のデート 帰り道編
少なくとも、3月最後の投稿になります。
帰り道。袖女は気にしなくていいと言ってくれたが、ここまでフォローされて、さらにこれ以上フォローされるのは男としてのプライドが許さないため、渋る袖女を押し切り、歩きで帰ることにした。
「はむ……むぐ……」
「ん……うんまいなこれ」
「こっちのたこ焼きもなかなかいけますよ。大阪じゃなくてもおいしいところはあるもんですね〜」
帰り道はデートという意識が途切れたのか、かなりフラットにいつも通り接することができ、途中のたこ焼き屋や惣菜屋に寄り、買い食いを楽しんでいた。
(楽しいは楽しいが……ま、反省だな)
今回のデートプランは、昨日に決まったと言うあまりにも突飛なものだったとは言え、小学生かと思うほどの陳腐な内容だった。袖女との付き合いは切る予定がないし、ここから先もデートする機会は出てくるだろう。
(次は下調べもしっかりして、完璧なプランを……)
チラリと横を見ると、腕を抱きしめ、実に楽しそうに微笑む袖女の姿が。
「……袖女、楽しかったか?」
「はい。とっても」
即答。
「即答かよ」
「はい。即答です」
(謝るとか無し……か……)
こんな日ぐらい、自分に甘くなってもいいのかもしれないな。
――――
伸太と袖女が独特な雰囲気を醸し出しながら、デートの帰り道を歩いていたのと同時期、その2人を遥か遠くから、1つの小さな鉄球がのぞいていた。
「……邪魔じゃな」
その正体はもちろんスチールアイ。ハカセのスキルである。と言うのも少し前、伸太が借りている部屋を訪問したのだが、いくらインターホンを鳴らしても出なかったため、こうしてスチールアイで何をしているのか捜索していたと言うわけである。
(あの女……確か、東京で見た……伸太め! ものにしよったな! なんでこんなおもろいことを言わんのじゃ……)
明らかにデキている。既にデキ上がっている2人を遠目に眺め、悦に浸りつつ、スチールアイの視点から目線を外し、目の前のドアに視線を移す。
「さて……いない理由もわかったし、ここらでお暇するかの……」
目当てのことはできなかったようだが、さすがのハカセも2人の雰囲気を壊すようなことはせず、鉢合わせを防ぐため、いち早く退散しようとしたその時、ハカセの目の前に、小さな門番が立ち塞がった。
「グルルルル……!!」
「お……?」
その名はブラック。主人の帰るべき場所を守るため、その牙を振るう小さな獣。決して今まで眠っていて、ハカセの存在に気づかなかったとか、そういうわけではない。決してない。
「おお……! オヌシが……」
(この犬が、震巻の言っておったヤツか……)
ハカセにとっては、ブラックが出たのは幸運だったらしく、限界態勢を取るブラックに対し、ハカセはジロジロといろんな角度からブラックを眺める。
「ア、アウ……?」
端から見たら変態にしか見えない行動は、ブラックから見ても気味悪く見えたらしく、困惑の声を上げる。
(特に目立った特徴は無い……が、震巻が言っているのじゃ。何かあるのは間違いない)
「じゃが……今、伸太との関係にヒビを入れる必要は無い」
(今回はお預けじゃな)
ハカセは念のため、書き置きをドアの口に挟み、その場を後にする。
「ワウウ……?」
一体何だったんだ? と首を傾げるブラックを残して……