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突然のデート 探検とかいう散歩に飽きる編

 筆が乗った

「ふーんふーんふーん」


 そんなこんなでやってきた新潟派閥の市街地。移動方法はもちろん飛行。俺と袖女しかできない飛行デートに洒落込んだ後、少し離れたところに着地した。


 まぁ、人目につかないように動いているので、デートと言えるほど長い時間飛んでいたわけでは無いのだが。ただの移動と大差ない。


 とにもかくにもたどり着いた未開の地。俺も少しはテンションが上がり、2人で歩きながら周りを見渡していたのだが……


「…………」


 鼻歌を歌いながら上機嫌に歩いている袖女とは異なり、常に無言で無表情。自分で言うのもなんだが、とてもデートとは思えない雰囲気を身に纏っていた。


(や、やることが……ない……)


 単純にやることがなさすぎる。なんとなく街に来たらいろいろあると思って来ていたが、よくよく考えてみれば、ただの街で観光用の何かしらなんてないに決まってる。軍事基地に1番近い街ならなおのことだろう。あまりにも馬鹿すぎる。


 さらに、唯一の楽しみであった避難しない理由だが、これも到着して早々に判明した。


 聞いたところ、新潟派閥には龍ヶ崎震巻と言う名の英雄がいるから大丈夫だろうといったものだった。まじで馬鹿らしい。戦争を知らないだけ、腑抜けていただけだった。


(あー……何期待してたんだろ)


 ここに来た目的も意味も忘れ、残っているのは、ただただ前へ進み続ける下半身のみ。1人ならこれでも耐えられそうなもんだし、飽きたらとっとと飛んで帰ればいいのだが、さっきも言った通り、袖女が妙に楽しそうなのだ。


「あ、次はこっち行きましょ! こっち!」


 袖女から誘ってきたなら帰っても良いのだが、デートも市街地への出発も俺が決めたこと。すぐ帰ってしまうのはそれとなく言い出しづらい。


 なので、少し時間が経ってから、帰りの話を聞き出そうとして10分程度経った後のこと。


「……ねっみい……」


 あまりのヒマさ、風景の変わりなさに絶望し、眠気のままに思いをそのまま話してしまった。


(あ、やべ)


 その時の気分は、例えるなら隠していた0点のテストが親にバレた時の気分。少しオーバーだが、思わず血の気が引くようなそんな感じ。


「悪い。失言だった」


 こういう時は即謝罪に限る。今だ腕を抱く袖女は、きっと怒った表情をしていることだろう。


「……ふふ」


 しかし、振り向いたそこにあったのは、微笑ましいものでも見たのかと思うほど、嬉しそうな表情だった。


「あくびするところ、初めて見ました」


「……そうか?」


「はい。そうです」


 俺のあくびが見られたところを喜ばれ、少々動揺する俺だったが、袖女の表情は良さそうだ。


(……ならまぁ、いいか?)


 全然オッケーだろう。うん。


 心の中で勝手に納得していると、スマホを開いて時間を確認した袖女は、こちらに向き直り、帰ろうと催促してきた。


「もうすぐ夕方ですし、帰りますか!」


「ん? 気にすんな。別に帰らなくていいぞ」


「私が満足してるんです! 良いものも見れましたし」


 良いもの。と言うのは、間違いなく俺のあくびのことだろう。


(デート中にあくびなんて、普通怒られそうなもんだけどな……)


 それはそれとして、眠かったのは事実なので、帰らせてくれるのはありがたい。


「悪い。助か「悪いじゃありません」……」


「私に時間を使ってくれて、あくびするぐらい頑張ってくれて、どれだけ嬉しかったかわかりますか?」


「……」


「謝るとか、無しですから」


「……ああ」


 まさか、袖女にフォローされるなんて夢にも思わず、ふと大阪のおばちゃんの言葉を思い出した。



『ああゆうタイプはいざ付き合うと尽くすタイプだよ!! おばちゃんにはわかる!!』



 あの時は、なわけないと思っていたが。



「……そうかもな」



 誰にも聞こえないように、本当に小さく、微かにそう呟いた。

 



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