突然のデート 出発編
鍋を食べるまで、予定外の出来事もあったが、概ね想定通りことは進んでいた。
大きな鍋と沢山のサイドメニュー。からあげやらサラダやら手羽先やらも、予定外ではあるが、想定通り。全く持って問題なかった。
何なら鍋を食べてしばらくの間も、思った以上の満腹感には包まれたが問題ない。
「あの……街に出て見ませんか?」
袖女がこんなことを言うまでは。
「いや、普通に無理」
「え〜なんでですかぁ! 行きましょうよ!」
食べてる時あんなに上機嫌だったのに、と言葉を溢す袖女を尻目に、途中で買ったコロッケを口に含む。
「めんどくさいんだよ街に入るのは……手続きとか大変らしいし」
龍ヶ崎震巻に誘われた時は、その時の衝動に身を任せ、マッハで何もかも無視し向かってしまったが、試合が終わった後、それとなく聞いてみると、色々と手続きが必要だったらしい。前回は特例で許してくれたが、本当は色々と面倒のようだった。
(それに……街に出たところで人がいるわけが……)
今の新潟派閥は戦争準備真っ只中、それは当然、一般市民にも伝わっているはず。となると、普通の感性なら、軍事基地の近くに住んでいる市民は避難やらなんやらで、もうすでに離れているはずだ。
「……ん?」
「どうしたんですか?」
(に、しては……人の姿も普通に見えたよな……?)
龍屋敷まで飛んでいた時、横目にではあるが、人の影やスーパーにコンビニも営業していた。人混みとはいかないまでも、普通の街並みが広がっていたはず。今の新潟派閥の現状と明らかに矛盾している。
(いかん。気になってきた)
一度気になってしまうと、もう好奇心の手を止められない。
(なんで避難していないのか……)
もしかしたら、新潟派閥は一般市民に情報を秘匿しているのかもしれない。いやそんなことあるのか? ちょっとしたらすぐばれるだろう。
(手続きは……いいや、無視しよ)
「袖女……予定変更だ。街に行くぞ」
「お! 行く気になりましたか!」
俺にお願いを断られて、少しおとなしくなっていた袖女の表情がぱあっと明るくなる。
「最初から行く気だったさ……ああ、それと、エスコートはできないからな?」
「大丈夫です。探検気分でいきましょ!」
我慢できないのか、袖女は小走りで駆け出す。
(探検気分……か。そんな気分、子供の時以来だな)
案外、袖女のおかげで気分転換になっているのかもしれないと思いつつ、後を歩いて追いかける。
焦る必要は無い。ゆっくり、楽しんで行こう。
どうせ終わりは、あちらからやってくる。