突然のデート 昼飯編 その2
恥ずかしすぎない?
顔を近づけてそんなことを言わないでくれ。個室を選んだはずなのに、何と言うか、羞恥心というか、恥ずかしさがものすごい。
「あ、目ぇそらしたぁ〜」
「そらすだろそりゃあ……」
袖女の顔を直視できない。今まで見てきた中でもかなりトロけきった表情で、見てるこっちまで恥ずかしくなってしまう。
(これがあれか……? いわゆるメス顔ってやつなのか……?)
「おー! ついに照れましたねー」
「照れてねぇ」
「今まで散々やられましたからねー。いつかのお返しですよー」
そういえば、だいぶ前に、顔を一気に近づけて恥ずかしがらせた時があった。
(懐かしいな……)
時間としては数ヶ月前で、一般的には全然最近のはずなのに、感覚的には数年前のように、ものすごく懐かしく感じる。
それくらい懐かしく感じるのは、その分濃厚な時間を過ごしてきたと言う表れだ。
(大分長くなったな……袖女との付き合いも……)
とりあえず、こんなにくっつかれるのは食べる時に邪魔になる。食べカスが飛んだりもするだろう。
「……ほら、あんまりくっついてると食べにくいだろ。離れろ」
「やーです」
「邪魔になるだろ?」
「私は気にしませんよ?」
「俺が気にするんだよ」
お前の問題じゃないんだよと思いつつ、問答を続ける。
「……む、じゃあ……お鍋が来る間だけ!」
確かに、それなら食べる邪魔にもならないし、袖女の調子も取れるしでいい条件。俺も女に引っ付かれるのは嫌な気分じゃないし、食事の時には邪魔にならない。個室だから、人の目も気にする必要もない。いいとこ取りと言える。
「……わかった。鍋がくるまでな?」
「! はいっ!」
龍ヶ崎ロカと偽黒ジャケットに挟まれた時もテンションが上がり、悪くない気分だったが、袖女にくっ付かれるのは悪くない気分に加えて、なんだか安心感をくれる。
(いつも家にいるからなのかな……?)
鍋が来るまで、そのまま2人で他愛無い話を続けていった。