突然のデート 昼飯編
外装が外装なだけに、個室も当然木製かつ和製。近年ではあまり感じられない空気感と木独特の匂いはどことなく居心地がいい。
(一昨日来たばっかりなんだけどな……)
「わー…………」
袖女の表情を見た感じ、少なくとも先に言った感覚に包まれているのは確かだった。
「神奈川じゃ、こういう店には行かなかったのか?」
「そういう時間はあまりなくて……あの時は、精神的にも……」
(……ああ、そういえば、神奈川でなんかあったんだっけ?)
そこまで詳しく聞いたわけではないが、俺の記憶が正しければ、神奈川派閥でひどい扱いをされ続けたっぽかった。変われないことがどうとか言ってたし。
(……そういや、袖女のことあんましらねぇな)
袖女は自分の過去をろくに喋りたがらない。不満を抱くわけじゃないが。
(ま、聞かれたら聞かれたでいいか。その時は聞いてやろう)
「それよりも! 早くメニュー見ましょうよ! ほらほらそっちに行きますかっ……ら!」
壁側に置かれていたメニューを手に取り、わざわざ反対席からこっちの席まで移動した上で、体を密着させてメニューを見せてくる。
「おう……にしても、いろいろあるな」
「そうですね……え! 牛乳鍋ってのもありますよ! なんでしょーこれ」
キラキラと目を輝かせながら、何にしようかと相談してくる。こういうところは女の子らしく、なんだかとても楽しそうで、こちらとしても連れてきてよかったと思える。
「そうだな……キムチ鍋は前に食べたし、他のやつならなんでも良いぞ」
「ダメです! 一緒に考えながら決めましょう。ほらほら見て見て!」
あまりにもテンションが高すぎる。ここまで楽しそうにしているのに水を差すのは少し申し訳なく感じたので、俺もメニューを覗き込み、鍋の選択に参加することにした。
――――
「……じゃ、これにしますか!」
「あ、ああ……」
それから、なんと約"20分"後。ようやっと鍋の種類が決まり、前はしなかった鍋のカスタムに加えてサイドメニューまで選択した。
正直、そこはどうでもいい。問題なのは時間だ。20分ってなんだ20分って。女の買い物は長いと言うが、メニュー決めも長いとは。座っているだけなのに、来てすぐよりも疲れたような気がする。
「んふふ……くく……」
「……楽しそうだな」
にしても楽しそうな袖女に思わず一声かけてしまう。
「だって、久々なんですもん。こうやって話すの!」
「……? 神奈川でも大阪でも話しただろ」
俺の返答がとんちんかんすぎたのか、袖女はヤレヤレと首を横に振る。
「あなた、最近はいつも切羽詰まってるっていうか……話しても事務的なのばっかりですし、周りの目を見ながらとか、そういうのも多かったですし……」
なるほど、自由に話したかったらしい。で、今回のデートに気合いを入れてきたと。
「なら言ってくれりゃよかったのに」
「言って欲しいんですよ。それが女ってもんです」
するとメニューを閉じ、袖女から顔を近づけた。
「だから嬉しかったんです。お出かけじゃなくて、デートって言って誘ってもらえて」