突然のデート 導入編
さらに次の日、戦争が5日前に迫り、周りの雰囲気もピリピリしてきたこの頃、俺は袖女を連れてデート……もとい、ご機嫌取りに来ていた。
「ふーんふーん」
と言うのも、最近全く構ってなかったからか、家にいる時の袖女が明らかに不自然なのだ。
例に出すと、今日は何があったかを執拗に聞いてきたり、自分の分の洗い物を洗わせようとしてきたり、昼間の間にゲームを進めて最強装備でボコボコにしてきたり。とにかく極悪非道で、決して許されるべきではない所業をたて続けに起こしている。特に最後のは許せない。死刑でなお足らない蛮行である。
とにかく、袖女の機嫌が悪すぎることに気がついた俺は、1番手っ取り速く確実に機嫌を直す方法として、英気を養うための1日を消費し、こうしてデートに赴いていると言うわけだ。
休まないのかどうかの点については問題ない。1日を消費するとは言え、袖女とデートと言うのはテンションが上がるし、やる気も上がる。英気を養う意味では十分な役割を果たしてくれるだろうと切り替えて考えている。
ちなみにブラックは家でお休みだ。最初はもちろん抵抗したが、袖女とのデートだと聞くと途端におとなしくなり、どうぞごゆっくりと言わんばかりに目を細め、ワンと小さく鳴いた。何かニヤニヤしてたような気がするが、俺の思い込みだと思いたい。
当の袖女はデートだと聞くと、あそこまで曇りかかっていた目を爛々と輝かせ、クローゼットを開き、明日着ていく服についての話とファッションショーを一晩中やらされた。その時点で少し後悔していたのは言うまでもない。
「ふーんふーん……お、あれですか? 例のお鍋屋さんと言うのは!」
「ああ。そうだな」
最強装備でボコボコにされた昨晩、このデート大作戦は始まったわけだが、そんな短い時間でデート先のことなど調べられるわけがない。ので、昼飯が新潟派閥滞在中に唯一訪れた鍋専門店になるのは自明の理であった。
「見た目は和風でザ・お鍋屋さんって感じですね〜。良さそうじゃないですか! ねぇ? 例のハカセって方と一緒に行ったとこ……私に内緒で、私より先に行ったところにしては!」
「あ、はは……」
(早く中に行った方がいいな……)
店の面構えを見たせいで、俺に対する憤りが再燃し始めたところで、すかさず袖女の手を取り、順番待ちの長蛇の列を尻目に店へ入る。
「いらっしゃいませー!」
「予約した田中なんですけど……」
「少しお待ち下さい。田中様田中様……はい! 確認できました。こちらへどうぞ」
従業員に連れられ、カウンター席を抜け2階に上がり、個室のテーブルへ入った。