いつの間にか起こっていた事態
龍ヶ崎震巻と、黒ジャケットこと田中伸太が戦い、田中伸太が半ば強引に追い出された形で龍屋敷から追い出された後、龍ヶ崎震巻と龍ヶ崎亮介は廊下を早歩きで歩いていた。
(なんだ? 親父……)
その場では気づかなかった龍ヶ崎亮介だが、廊下での父親の雰囲気の違いに、さすがに異変を感じていた。
(何か焦っているような……)
「親父……どうした? 様子が変だぞ」
龍ヶ崎亮介にその言葉を投げかけられた龍ヶ崎震巻は体で反応することなく、歩きながら疑問に答えた。
「……すごい強さじゃったな、黒ジャケットは」
「あ? ……ああ、そうみたいだな」
直接、戦いを見たわけではないが、龍ヶ崎ロカの話から、黒ジャケットの戦いぶりを聞いていた。
「……って、答えになってないぞ。なんでそんな怒ったような……」
「……何。黒ジャケットの強さに驚いていただけよ」
「そっか……」
(なんだ? この、胸がイガイガする感じ……)
胸の奥、さらに心臓の奥からだろうか。そこに少しの違和感を抱えながら、2人は廊下を歩いて行った。
――――
「……不足の事態……か」
その日の夜、夕飯を食べた龍ヶ崎震巻は自室に戻り、晩酌をしっぽりと楽しんでいた。
酒を楽しむようなしっとりとした表情から一転。何か覚悟を決めたような顔になると、近くにあった漆の棚から取っ手のあるベルを取り出し、すぐさまベルを鳴らした。
「――――お呼びでしょうか」
すると、複数人の忍び装束を纏った人間たちが出現する。ふすまを開けることなく、足音を立てることもなく屋根から現れた。
「よう来たな……まだまだその技術は健在か」
「ありがとうございます。ですが、我は御身の忍……主人殿がお呼びになるのなら、現れるのは当然のことでござる」
とってつけたござる語尾にクスリと笑いつつ、龍ヶ崎震巻と忍たちは次のステップへ進み始める。
「……して、主人殿。今回のご命令をお聞かせください」
「うむ……」
忍の方から率先して聞いてくるのを見るに、忍はいつも鳴り物入りの用事を押し付けられているらしい。悪く言うと、都合の良いパシリのようなものだ。
「今日、龍屋敷に入った客の監視を頼みたい。もしかしたら……いや、間違いなく、この戦争において、良くも悪くもキーパーソンになる」
主人の言葉に大きな反応を見せず、忍はわかっていましたと言わんばかりに頭を下げる。
「了解でござる。では、すぐにでも黒ジャケットの監視を「違う」……と言いますと?」
ここで初めて、忍の肩がピクリと震えた。
「あの黒い犬もじゃ。むしろ黒ジャケットより強く監視せい……念の為な」
なんかござる口調ってむずない?