動転 その2
門まできた俺たちは、従者に連れられ、門を開く。
そこには……!! と、貯める必要もなく、俺に置いていかれたブラックがおり、俺が来たことに気づくと、目にも止まらぬスピードでダッシュし、しがみついてきた。
「ウウ……クウ……」
「あー……悪かった」
ブラックはどちらかと言うと程度だが、よく鳴く犬だ。
しかし、今回俺の胸に飛び込んできた時にこぼした鳴き声は、鳴くというより、泣くって感じだった。非常に胸が痛い。
「ウウ……ウウ……」
「来てくれて悪いが、もう用は終わったんだ」
「ワウ!?」
「ははは、悪いな」
ブラックが驚きの表情を浮かべる。どこにでもある犬顔なのに驚いているのが表情でわかる。相変わらず特殊な犬だ。飼っていて面白いことこの上ない。
しゃがみ込んでブラックと戯れていると、ハカセが物珍しそうに近づいてきた。
「ほぉ……その犬、鍋の時もおったが……やはりオヌシの犬じゃったか」
「いや気づけよ」
「オヌシが犬買うとは思わんて……」
隣に歩かせてんだから、普通気づくだろ……と思いつつ、ブラックを撫でる手はやめない。戦った後のブラックのモフモフ感は至福のひと時なのだ。
「ハカセも触るか? 結構癒されるぞ」
「やめとくわ。ワシに触れるとろくなことにならん」
よくわからん理由でハカセに断られたが、今の俺はそれでも気分が良かった。
「どうだ? あんたらも撫でて見たら」
続けて龍ヶ崎の2人にも撫でるのを勧めようと視線を移すと、そこには意外な光景が待っていた。
「…………あ?」
龍ヶ崎亮介の方は問題ではない。問題なのは龍ヶ崎震巻の方だ。
ありえないほどの鬼の形相。俺と戦っている時も真剣な表情をしていたが、それは真剣な表情とは違い、おぞましいものを見るような、怨敵を見るような憎悪に満ちた表情だった。
「……黒ジャケットとやら、もう帰るのか?」
「え……あ、ああ……」
「そうか……ワシも少し疲れてしもうた。悪いが席を外すぞ……行くぞ亮介」
こちらの了承も得ないまま、龍ヶ崎震巻は勝手に踵を返し、龍ヶ崎亮介とともに龍屋敷の中へ帰ってしまった。
ブラックを見た途端に起きた突然の病変、それは当然、ハカセの目にも入っていて、アゴに手を当て何かを思案しているようだった。
「……まさか、ブラキ……おい伸太。その犬、どこで買った?」
いつになく真剣な雰囲気で、ハカセも思わず本名の方で俺を呼んでしまっている。ここは正直に話したほうがいいだろう。
「買ったっつーか……拾ったんだよ」
「どこで?」
「そりゃ大阪だよ。ハカセと別れた後に拾ったんだし」
するとハカセはアゴに当てていた手をひたいの上に乗せ一言。
「やはりか……」
どうやらハカセは俺の返答をある程度予想していたらしい。
「……なんだよ一体」
「……すまん。こっちの話じゃ。なんでもない……それより、良い経験になったじゃろう? これを糧にして戦争に望め。ワシも龍屋敷に戻る」
ハカセと龍ヶ崎震巻と同じく、背を向けて歩いていく。
「なんだってんだよ。もう……」
せっかくいい気分だったのに、おかげで台無しだ。
「む……それと」
そのまま歩いて行ったと思われたハカセだったが、視界から見えなくなるギリギリでこちらに向き直り……
「強くなったな」
それだけを言って、姿を消した。
「……なんだってんだよ」