願ってもない機会 その6
拳と拳のぶつかり合いはいくらだって経験してきたつもりだ。
だが、龍の炎とのぶつかり合いは人生初。熱は右腕から全身に回り、視界は真っ赤に染まる。自分以外がどうなっているのかわからない。熱は全身に回り切り、素手で触れてもいい温度を超え始める。
恐ろしいほどなめらかに、気持ちの良いほど、ゆっくりと自分がどうなっていくのかを地肌で感じる。
超人が耐えられる熱の臨界点をついに突破し、肉の焼け焦げた匂いもし始めた。考えてみればそりゃそうだ。どれだけ鍛えても所詮は肉の体。焼けば焦げる。当たり前のことだ。
やがて目も開けられないほど火が熱を帯び……
「「降参!!」」
根負けし、ぶつかり合いから離脱。両手を上げて白旗を上げた。
――――
俺が両手を上げて降参したタイミングは、偶然にも龍ヶ崎震巻が降参したのと同じタイミングだった。
「これ以上はやめとこうぞ! 戦争に支障が出る!」
「ああ……そうみたいだな」
周りを見ると、枯山水の庭の波はあられもない姿になり、砂はどこかに吹っ飛んでいて、龍屋敷の露出しているところは所々に火種ができている。屋根はもちろん全ハゲだ。
(臭いな……)
俺の体からは、にじみ出る鉄の匂いと、臭い肉が焼かれた時の獣臭が立ち込め、右拳は黒く焦げ、血肉が露出していた。
なのに服は焦げていない。
(低温で焼かれたのか……? いわゆる低温火傷のような……)
「両者同時に降参したのじゃ。今回は引き分けということで文句は無いな?」
試合を傍観していたハカセが言葉を発する。
「ない!」
「俺もだ」
戦争までもう1週間を切っている。これ以上やり合うのは戦争という名のメインイベントに影響を及ぼしてしまう。
「サンキューなハカセ。……すごくいい時間だった」
「それはいいが……後で病院に行ってこい。潰れてもらっては困るからの」
元々、戦争までの暇を埋めるための試合だったのだ。戦争はこれなんかよりも苛烈なものになる。
(本当に良かった……本当に)
この庭の大きさは、神奈川派閥の訓練所と大差ない。
そして、龍ヶ崎震巻とおそらく同格であろう白や黒のキングと初めてやったのは訓練所で、その時は手も足も出ずに気絶してしまった。
しかし、今の俺は気絶せず、むしろダメージを与えた。
明確な成長。強さへの自信ではない。絶対的な自信が俺の中に溢れたのを感じた。
(俺は……辿り着きつつある)