願ってもない機会 その5
ちょっと前からですが、諸事情で毎日投稿できないかもしれません。そこだけご了承お願いします。
(内臓を自由に動かせる……か)
よく考えてみれば、目の前にいる男は、あの巨大な龍になるのだ。その過程で体は作り変わり、当然、内臓や骨の位置も変わるはず。人間の状態で、体の中だけ動かすことなど造作もなかった。
「それは驚きだ……が」
右手に握り拳を作り、そこに闘力をプラスする。
「どこに当たっても致命傷なら関係ない」
俺の闘力量はすでに、人を何回殺してもありあまるほどになっている。いくら相手が内蔵の位置を入れ替えようと、一撃の威力がとんでもなければ関係ない。
「……なるほど、少々強引じゃが……理にかなっている」
「だろ!?」
その言葉を皮切りに、1歩踏み込み跳躍。一瞬でゼロ距離まで持ち込んだ。
……と、思ったのだ。
「……な!?」
俺は自分から距離を詰めていた。よって、頭が体より前に出たクラウチングスタートのような体勢をとっている。これには拳を出しやすく、かつ拳にダッシュの勢いをプラスできる効果がある。
対して、相手は当然無防備。こちらが有利な対面のはずなのだが……
(龍ヶ崎震巻も……俺と同じ!?)
龍ヶ崎震巻も俺と同じく前傾姿勢で、クラウチングスタートのような体勢をとっていた。これすなわち、龍ヶ崎震巻も俺と同じ距離を詰めてきていたのだ。
「マジか!」
「若造の考えることなど!!」
そのまま、お互いの拳がぶつかる。拳と拳のぶつかり合いは、肉がぶつかったとは思えない金属音を立て、大きな火花を立てる。
「手に取るようにわかるわぁっ!!」
一見互角のように見えたが、その一見は一瞬に過ぎず、俺の拳はすぐに押し負け、腕は宙に跳ね飛ばされた。
「ちいっ!!」
しかし、俺はその程度で止まらず、宙に浮いた腕をすぐさま引き戻し、闘力の拳のラッシュを叩き込む。
「温い!!」
しかししかし龍ヶ崎震巻はラッシュに対応し、手のひらで勢いを逃がすようにラッシュをカット。
「温いのはそっちだ!!」
しかししかししかし、龍ヶ崎震巻が拳にばかり集中していることを見抜いた俺は、ラッシュが全て弾かれたタイミングで足を駆動させ、アゴを蹴り上げた。
痛みにのけぞる暇もなく、お互いに少し下がって、示し合わせたかのように同じ方向へ回転する。当然だが息など合わせていない。息が勝手に合ってしまう。お互いの思考のレベルが同じ証拠だ。
回転しながらも本命ではないジャブを打ち合い、まるでボクシングのリング上。せめぎ合いが続く。
だが、俺には1つの懸念点があった。
(このままじゃらちがあかないな)
単純な身体能力では押し切れない。これは龍ヶ崎震巻も思っている問題点だろう。しかしスキルを使って狙いに行こうとも、一撃にうまいことスキルを合わせて対応される。
(なら……うん。そうしよう)
回転を即座に停止し、いきなり大振りの右ストレートを叩き込む。肉を叩いた手ごたえは感じたが、視認してみると、当たり前のように腕でガードしていた。
「どうした急に?」
「そんなにトロトロ撃ってないんだけど……なっ……!」
しかし、俺の狙いは右ストレートによるダメージではない。右ストレートはあくまでフェイクであり、本命は手を体につけることだった。
俺はすかさず、この戦闘で初の空気反射を発動。跳ね飛ばされた龍ヶ崎震巻の表情は驚愕に染まりつつも、目ははっきりとこちらを向いていた。
(さすが英雄ってとこか……が!!)
見ていても、見えなければ意味はない。俺はこの戦闘で初めて闘力と反射を同時発動。元いた場所に残像が残るほどの速度で移動し……
「次はタダじゃすまねぇぞ!!」
同じく、闘力と反射を込めた拳。数多の敵を屠ってきた拳だ。新潟の英雄とて、当たればひとたまりもないだろう。
(闘力はたっぷり込めた!! 直撃なら消し炭になる!!)
「死ね!!!!」
それは、数多の命を奪ってきた破壊の拳。
「龍の息吹」
相対するは、地焦がす龍炎の息吹。