願ってもない機会 その4
完璧に決まった撲殺コンボ。アゴからの心臓、そしてトドメの顔面パンチ。
美しさすら感じるそれは、かなりのダメージを受けてもおかしくないのだが……
「ふん……」
龍ヶ崎震巻は何事もなかったかのようにムクリと立ち上がり、首を鳴らしながら肩の砂を払った。
(そりゃそうだ……こんな程度でやられるわけない……)
こんなので根を上げていたら、袖女と大差ない。あれくらいはモロ食らいして平気ぐらいでないと困る。
「……謝りはせんぞ」
「あ?」
いきなりの宣言に少し戸惑う。
「もう少し試させてもらう」
龍ヶ崎震巻は一気に距離を詰め、先ほどと同じ打ち合いの状況に持ち込んできた。しかし、打ち合いは俺にとって主戦場。こちらとしても望むところなのだ。
「ふっ……」
初手は龍ヶ崎震巻。詰めてきた勢いをそのままに、脇腹に向かって貫手を打ち込む。
(貫手か!!)
それにすぐさま対応し、俺は両手で挟み込んで抑え込む。だがその代償に、両手が塞がってしまった。これでは次の一手の対処に腕が使えない。
「それでは丸腰ですと言っとるようなもんじゃぞ」
当然、相対している男はそれを逃す人間ではない。すかさずもう片方の腕を使って、切り落とさんと首に手刀を放ってくる。
「……それはどうかな?」
ただ、俺にはまだスキルが残っている。
「!? なっ……!」
振り下ろした手刀が着弾する直前でピタリと止まる。もちろんこれは俺のスキルによるものだ。
(東京派閥で手に入れたスキル……エリアマインド!)
俺たちの周りに漂っている目にも見えない微細な砂埃を手刀に付着させることにより、寸止めのような現象を起こしたのだ。
龍ヶ崎震巻からすれば、当然初見のスキル。表情からは少しの戸惑いも感じられる。先ほど、龍ヶ崎震巻が無防備になったところを逃がさなかったように、俺もこのチャンスを逃すほど弱者ではない。
「ふんっ!!」
すかさず心臓への鋭い一撃。スキルこそ使っていないものの、最初と同じく大きな隙を作ることは必定。
(そこに……闘力を乗せた拳をぶつける!!)
闘力を乗せた拳は、普通の拳によるダメージとは比にならないダメージを与えることができる。
心臓への一撃が決まった時点で、普通なら次の本名は入っている状況。
だが、龍ヶ崎震巻は反撃の一撃を顔に叩き込んできた。
「ぐっおっ……!!」
普通はありえない一撃。人間なら受けるべきはずのロジックは、龍ヶ崎震巻によって破壊された。
なぜ? どうして? そんなバカな。疑問符が次々と頭に浮かぶ――――ことはなく。
(心臓から少し外したか? いや、さっきと同じところに確実に叩き込んだはず。不発弾はありえない……スキルで防がれたな)
今までの濃密すぎる経験値から、予想外のことに対しての耐性がついていた。顔面が殴られたにもかかわらず、脳が問題なく動いていく。そこから、心臓への一撃はスキルで防がれたと言う結論を算出した。
ひとまず、ここは流れに逆らわず、殴り飛ばされるまま後ろに飛んで行き、戦闘にワンクッションをつけた。
「……驚いたな。決まったと思ったんだが」
変に我慢せず、嘘偽りない本音を溢す。
「ふっふっふ……伊達に歳を食っとらんということじゃ」
龍ヶ崎震巻は胸を親指で数回押し、自信満々に答えた。
「ワシは龍じゃぞ? 内臓などいくらでも動かせる」
「なるほど……納得」