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願ってもない機会 その3

 さすがは戦争黄金期の英雄。たった一言、開戦の合図を送るだけで、空気が変わり、木々がざわめく。


 俺も思わず腰を落とし、戦闘体制を取る。まず狙うは脇腹。1番スキだらけなところ。


「もちろ「そうか。じゃあ庭まで行こうや」……おう」









 ――――









 龍屋敷の広大な庭の中でも、龍ヶ崎震巻の完全な趣味で作られた戦闘用庭。そこは庭と言うより広大なフィールドで、ぱっと見はグラウンドにしか見えない。


 新潟派閥という一大派閥の長が住む場所なのだから、こう見えて、意外とハイテクな機能があるのかと思ったのだが、本当に何もない。ただの広いクラウンド。


(いや……だからこそフェアなんだ)


 ハカセは庭の端に、俺と龍ヶ崎震巻はグラウンドの真ん中で相対していた。


「……1ついいか」


「何じゃ」


 俺の前でのんきに腰をぐりぐり回し、のびをしている龍ヶ崎震巻に問いかける。


「周りの壊しても、文句は言わないでくれよ?」


「ははは……こまるの、それは」


 それが、真の開戦の合図となった。


 瞬間、龍ヶ崎震巻の姿が消える。何度も見た強者特有の脅しを含めた行動。お前は俺よりも格下なんだと教え込むような。これに押し負けると勝負が一瞬で終わってしまいかねない強力な動き。


 しかし、四聖の1人と戦った時、俺はこいつだと同じ強者なのだと自覚した。







「読めてるよ」







 英雄と反逆者の拳は、戦地の中央で激突した。









 ――――









「ほう……」


 最初の()()に対応したことに、舌を巻くとまではいかないものの、拳を合わせただけで、いい兵士だと感じれた。



 合格ラインはやってもいい。そう思った。



 が、高得点かといえば、話は別だ。


「テンポよく行くぞい」


 片足を踏み込ませ、下がらせないために黒ジャケットの足に絡ませる。即時に合わせていた拳を引き、肩より上に両拳を上げ、打ち込む姿勢をとる。


(ぬっ……!?)


 ここまでのことをしておいて、かかった時間は2秒にも満たない。そこまでは想定通りだったが、意外だったのは黒ジャケットもワシと全く同じ姿勢をとってきたからだ。


 普通、こうやって近距離の戦いになったら、どっちが先に先生攻撃を当てるかで勝率がぐっと変わる。ほとんどの場合は、なりふり構わず殴りに行ったり、相手の攻撃を避ける姿勢をとるのが多いのだが、あろうことか、この男はワシの動きを見て、それを真似てきたのだ。


 ワシより速い速度で。


「貴様……!」


 おちょくられているとしか思えない行動に、打ち合いできる体制を解き、おもむろに腕を振り上げた。


 足を絡めるほど距離を詰めた状態で大振りの攻撃など、実力者同士の戦いでは自殺行為。案の定、ワシはアゴにジャブを受けた。


「ぐう……?」


 人間の弱点であるアゴにモロ食らいし、脳を直接揺らされる。目が回ったような感覚に陥ったワシは、防御体制など取れるわけもなく、胸の中心、心臓部に右ストレートを立て続けに貰う。


「ぐっ……」


 人間が生きるための器官の中でも最重要の部位である心臓に一撃を無造作に受け、時間が一瞬止まった感覚に陥る。


「ごぼっ……」


 顔面に締めの左フック。絡めていた足も勢いで無理矢理振り解かれ、宙に放り出された。


 これらの連続攻撃はその全てが急所であり、人を殺すための過程を正確に踏んでいる。



 つまり、コイツは知っているのだ。



(人を殺すすべを……この男は知っている!)



 しかし、だからこそ……



「惜しいな」



 ワシは人ではなく、龍なのだから。






 

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