願ってもない機会 その2
「ほれ、こっちじゃ」
ハカセに門を通された後、後からやってきた従者らしき方の案内を断り、庭を経由して廊下に上がると、砂で波が描かれた庭を渡見渡しながらハカセについて行っていた。
「……なぁ、ハカセ。冷静に考えてみたんだが」
「ん?」
「なんでハカセから龍ヶ崎震巻と戦えるって連絡が来たんだ?」
興奮していて気づかなかったが、よく考えてみると、もともと放浪者だったはずのハカセが、ちょっと上に連絡しただけで龍ヶ崎震巻と戦えるようになる意味がわからない。あまりにも融通が聞きすぎだろう。
「鍋食った時に言ったじゃろう? 少しツテがあるんじゃよ」
少しどころの話ではない。まず間違いなく、ハカセには何かある。もともとただ物ではないと思っていたが、その度合いがまさか戦争黄金期の人物にまで手が届くほど飛躍しているとは予想外だった。年代的には、戦争黄金期の人物と大差ないかもしれないが、それでもだろう。
「……そうか」
気にはなるが、おそらく、詮索しない方がいいことなのだ。
「……そういえばお前、何か体に異常はなかったか?」
「あ? 異常?」
「ああ……最後に会った時よりかなりがっしりしているなと思ってのう」
おっと、そういえば。黒のクイーンとの戦いで、急に筋肉がついたのを言っていなかった。
「そうなんだよ! 少し前に神奈川派閥に行く機会があって……そこで筋トレしたんだ!」
「ほう……神奈川で……」
ハカセは少し無言の時間を作る。
「……老害どもは元気だったか?」
「え?」
「……すまん。こっちの話じゃ……着いたぞ。この部屋じゃ」
気がつけばふすまの前。見た目は他のと変わらない。一国の王がいる部屋だとは思えないが、ハカセは一声かけて、容赦なくふすまを開いた。
「お前か……待っとったぞー」
そこにいたのは、着物を着た初老の男性。龍ヶ崎震巻の外見は事後会議で知っていたが、着物1枚のラフな格好で見ると、印象がぐっと変わってくる。
「……あんたが」
「いかにも、ワシが龍ヶ崎震巻。新潟派閥の英雄じゃ」
(最後まで言ってないんだが……)
「最後まで言っておらんじゃろう」
先走って、自分の名を名乗ってきた龍ヶ崎震巻に、俺は心の中で、ハカセは直でツッコむ。
「先まで言わんでもわかると言うやつじゃよ! 2人揃って洒落がわからんやっちゃの〜」
そう言いながら肘掛けに体重を乗せ、起き上がると、肩のほこりを払う。
「……さ、やるかの?」
弛緩した空気を締める一言を放って。