下見
店の本物の鍋をたっぷりといただき、腹を満たした俺はブラックを肩に乗せ、腹ごなしも兼ねてハカセに送られた地図を頼りに、群馬派閥まで足を運んでいた。
「ふーっ……ここら辺だな〜……しっかし、寒いなーこりゃ」
「ワウウ……」
ハカセの地図にあった指定の場所に到達した俺たちは、飛行するのをやめ、雪が降りしきる地面に降り立つ。
(雪の降ってる量が段違いだ……膝まで沈んだぞ……)
群馬派閥は今までの派閥と違い、そこまで巨大な派閥ではない。草木がおいしげる場所なためか、今までの場所と比べて向きが大きく振り積もっていた。おかげであたり一面雪景色。鍋専門店に行くまでの雪が馬鹿みたいに感じるほどだ。
「本当に山と木しかないな……雪はあるが……」
人里らしきものも見えないため、人の手が全く加えられていないのは証明済み。そのおかげで雪かきなどは一切されておらず、気候のせいで視界も悪い。戦争が始まるとどうなるかはさておき、人が行動するのに適した場所でないことは確かだろう。
(山の場所とかは覚えておいた方がいいな……一旦の休憩に使えるかも……)
「……ん? どうしたブラック」
山の場所や平坦の場所を覚えようとしていた矢先、肩に乗って寒そうにしていたブラックが、いつの間にか地面に降り立ち、俺に向かって鳴いていた。
俺がブラックに気づくと突然、ブラックは雪の中にダイブし、ごろごろと転がり、真っ黒い体毛が真っ白に変わるほど毛に雪を付着させる。
「あーあー何やってんだ……袖女に怒られるぞ……ん?」
ブラックのよくわからない行動に困惑しているのも束の間、ブラックは白くなった体で勢い良く走り出し、その姿を消した。
(見えなくなった……ん? 見えなくなっただと? 俺が?)
すぐにブラックは帰ってきたが、そんなことが気にならなくなるほどに、俺の中の疑問は膨れ上がっていた。
普段なら、ブラックが走った程度のスピードを見逃すわけがない俺が見えなくなった。その事実に再び困惑するが、その困惑が溶けるのに、長い時間はかからなかった。
(そうか! この天候に、ブラックが雪を纏っているから……)
視界が悪い雪の中で、ブラックほどの小柄な生物が、雪と同化してしまえば、姿を消すなど造作もない。つまりブラックが言いたいのは、山や木などのいつでもあるものだけでなく、この時期しかない雪も利用しろと言いたかったのだ。
「なるほどな……サンキューブラック。お前に教えてもらったよ」
「ワン!」
とにかく、これは良い収穫だ。フィールドのアドバンテージは俺にある。後はこれをどう生かすかで、いくらだって有利をこちら側に舞い込ませることが可能になるだろう。
「このまま色々と調べていくか。行くぞブラック」
「ワウン!」
こうして、白き大地に1人と1匹の足跡をつけながら、そこら中を見て回った。